著者・成瀬 なぎさ
2級ファイナンシャルプランニング技能士 / 日本FP協会認定 AFP
法政大学法学部法律学科卒業。三菱UFJモルガンスタンレー証券に新卒で入社し、6年間個人営業を担当する。 日本株、米国株、投資信託数、債券の他に、生命保険や仕組債といった金融商品を案内・提案。退職後は自身で株式投資を行い、相場をチェック。同時に、投信や保険といった金融商品も最新情報を集めるようにしている。
<保有資格>
・2級ファイナンシャル・プランニング技能士
・日本FP協会認定 AFP
目次
つみたてNISAとは、2018年1月より開始された少額投資非課税制度です。
年間40万円を上限として投資信託を買い付けし、売買によって得た利益が最長20年間非課税になります。
つみたてNISAの中でも「S&P500」は常に買付金額が上位にあがる人気の銘柄です。
この記事では「S&P500とは、そもそも何なのか」「つみたてNISAを始めたいがS&P500を買うか悩んでいる」といった投資初心者の方向けに、S&P500について解説していきます。
S&P500とは
S&P500とは米国の代表的な株価指数の1つであり、米国を代表する500銘柄の時価総額を元に算出されています。
米国市場全体の動きを反映する重要なマーケット指標です。
S&P500は株価指数
S&P500は「エスピー500」と読み、米国の代表的な株価指数です。株価指数とは、取引所全体や特定の銘柄群の株価の動きを表します。
投資初心者の方には「株価指数」という言葉は耳慣れないものでしょう。
日本の代表的な株価指数には、日経225(日経平均株価)やTOPIX(東証株価指数)などがあります。S&P500はこうした株価指数の米国版、と考えるとイメージしやすいでしょう。
S&P500は、米国を代表するような主要500銘柄で構成され、その時価総額をもとに米国の格付け会社である「S&P」が算出しています。米国株式市場の時価総額の約80%をカバーしており、米国の市場動向を知るうえで重要な指標となっています。
時価総額とは企業の大きさを表す数値です。時価総額の大きい企業ほど大きな規模の会社とイメージするとわかりやすいでしょう。日本で一番時価総額の大きい会社は車のトヨタです。
なお、S&P500以外の米国の株価指数には「ダウ平均株価」があります。この2つの違いも説明します。
S&P500は、組み入れる銘柄が時価総額順になっています。そのため、組み入れ銘柄の上位は、現在世界的に勢いのあるAppleやGoogleなどのIT企業が占めています。
一方で、ダウ平均は株価の平均によって算出されます。一株当たりの価格が高い銘柄が組み入れ比率の上位になるため、幅広い業種が採用されている点が特長です。
組入銘柄
実際にS&P500に組み入れられている銘柄の一部を紹介します。
AppleやAmazonなど、株式投資に詳しくない方でも、必ず知っている大企業が中心であることがわかります。
◾️主なS&P500組入銘柄
アップル | 世界的な、スマートフォン、パソコン、タブレット端末、ウェアラブル製品を設計、製造、販売している会社。iPhoneやMac、タブレット製品のiPadは世界的にも有名で日本でも人気です。 |
---|---|
マイクロソフト | ソフトウェアの開発、販売を手掛ける会社。Microsoft OfficeやInternet Explorer、Microsoft Edgeを開発、展開しています。時価総額がAppleに次いで世界2位の大企業です。 |
アマゾン・ドットコム | 米国のオンライン小売の最大手です。日用品、書籍、ゲームや家電、衣料品などさまざまな商品を販売するだけでなく、受注から梱包、発送サービスを行っています。オンライン薬局を展開したことでも話題になりました。 |
テスラ | 米国の電気自動車メーカーです。電気自動車と関連製品の開発、製造、販売を手掛けています。 |
アルファベットA | 聞きなれない名前ですが、Googleの親会社です。広告収入、アプリの売上、アプリ内課金、GooglePlayストアの売上などで利益をあげています。 |
ロールオーバー | 可能 |
S&P500と日経平均株価の比較
実際にチャートからS&P500と日経平均株価を比較してみます。 S&P500の10年間の動きを表したチャートです。
続いて、日経平均株価の10年間の動きを表したチャートです。
出典:金融庁| SBI証券
2つのチャートを見ると2度ほど、大きく下がっていることがわかります。
2016年に大きく下げているのは、中国の経済指標が悪化したことで投資家のリスク回避の動きが高まったこと、加えてイギリスがEUを離脱する選択をしたことで世界的に株式が急落しました。
2020年の急落はまだ記憶に新しいコロナショックです。新型コロナウイルスが感染拡大したため、このときも世界的に大きく株価が下がりました。
どちらのチャートも、こうした経済危機を何度か迎えつつ、現在は株価が回復してきていることがわかります。
とはいえ、S&P500と日経平均を比較すると、以下のようなチャートになります。
出典:金融庁| SBI証券
青い線がS&P500、ピンク色の線が日経平均を表しています。上がり下がりを繰り返しながら、少しずつ上昇していることがわかります。
どちらも似たような動きをしていますが、S&P500の方が日経平均よりもパフォーマンスが良いということがわかるはずです。
なぜS&P500の方がパフォーマンスが高いのでしょうか。その要因をS&P500に投資をするメリットとして解説していきます。
S&P500に連動した投資信託を購入するメリット
S&P500に連動した投資信託を購入すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。解説していきます。
米国の経済成長の恩恵を受けられる
S&P500に連動した投資信託を購入する最大のメリットは、米国の経済成長の恩恵が受けられることです。
「GDP」は「国内総生産」を意味し、一定期間に国内で算出された利益の総額から国の経済活動状況を示す数値です。
米国は高いGDPを誇り、現在でも世界最大の経済大国となっています。
2021年のGDPを見ると、米国が約23兆ドルであるのに対して、日本は約5兆ドルとなっています。このことからも、米国の高い経済成長率がわかるのではないでしょうか。
また、S&P500に組み入れられている銘柄は、AmazonやMicrosoftなど世界に名だたる大企業ばかりです。
Amazonの株価は10年前、約20ドルほどでした。2023年現在では、約100ドルになっています。10年で5倍になったことがわかります。ほかにも、Microsoftの株価は、10年前50ドルほどでしたが、2023年現在では約300ドルになっています。10年で6倍になった計算です。
企業の規模という観点からも、米国企業の将来性、成長性が期待できます。
世界の時価総額の上位銘柄を見ると、そのほとんどを米国株が占めています。日本で時価総額が最も大きい会社は車のトヨタですが、そのトヨタでさえ時価総額では世界で40位程度にとどまります。
こうした組み入れ銘柄の株価の推移や時価総額の大きさを見ても、S&P500に採用されている企業の成長性、そして米国経済の今後の発展が期待できるのではないでしょうか。
米国企業全体へ分散投資ができる
S&P500に連動する投資信託を購入することで、米国企業へ分散投資ができます。
S&P500は株価指数であり、その名のとおり500もの銘柄から算出されています。そのため、500の企業に分散投資ができる点が大きなメリットといえます。
1つの企業に投資をした場合、その企業の経営が悪化すると株価が大きく急落し、最悪の場合経営が破綻して株の価値が暴落してしまうリスクがあります。
一方で、S&P500に連動する投資信託であれば、組み入れられているのは米国を代表する大企業ばかりです。そうした大企業の株に分散して投資を行うため、1つの会社の経営が悪化してもほかの企業がカバーできるでしょう。
もちろん、米国経済全体の景気が悪くなって相場全体が下がれば、S&P500に連動する投資信託の価格も下がる点は注意が必要です。
とはいえ、先ほどのチャートでわかるように、米国経済はこれまで何度も経済危機に直面しながら、それを乗り越え、今でも成長を続けています。
短期的に下がることは予想されますが、長期的に保有し続ければ、良いパフォーマンスが期待できるのではないでしょうか。
S&P500に連動した投資信託を購入するデメリット
S&P500に連動した投資信託を購入するデメリットもあるため解説します。
地域分散ができない
S&P500に連動する投資信託を購入した場合、地域分散ができない点がデメリットです。
世界各国には株式市場があり、日本や中国、イギリスといった先進国のほか、インドやブラジルといった新興国にも投資ができます。
しかし、S&P500は米国株式の指標であるため、組み入れられている銘柄は全て米国の企業に限定されています。トヨタやペトロチャイナなど、時価総額が高い企業であっても、米国株式市場に上場していない銘柄は組み入れられません。
投資先が米国の企業に限られているため、米国の経済成長が鈍化したり、景気が悪化したりするとS&P500は下がります。
S&P500は500の銘柄が組み入れられているため、米国企業への分散投資ができますが、国という地域の分散ができない点を覚えておいてください。
とはいえ、米国経済は世界で最も大きな市場です。もし米国の株式市場が悪化すれば、投資家のリスク回避の動きが世界中に波及し、各国で株安になる可能性が高いでしょう。
つみたてNISAで購入可能なS&P500に連動したおすすめ投資信託
つみたてNISAで購入が可能なS&P500に連動する投資信託を3本紹介します。
S&P500に連動する投資信託は、数え切れないほどあります。S&P500に連動するように設定されているので、投資先は変わりません。
変わる点は、設定された年月と信託報酬です。
信託報酬とは、投資信託を運用するための手数料のようなもので、投資信託の総資産から決まった割合で引かれています。
三菱UFJ国際ーeMAXIS Slim 米国株式(S&P500)
2018年の投信設定以降、順調に純資産額を伸ばしている安定した投資信託です。
◾️三菱UFJ国際ーeMAXIS Slim 米国株式(S&P500) 基本情報
基準価格 | 19,793円 |
---|---|
純資産総額 | 1兆9,712億円 |
信託報酬 | 0.0968% |
トータルリターン(3年) | 25.32% |
設定日 | 2018年7月3日 |
(2023年4月18日時点)
三菱UFJ国際のeMAXIS Slim米国株式(S&P500)は、S&P500に連動する投資信託の中で、最も大きな純資産総額を誇る投資信託です。取り扱っている証券会社も多く、ほとんどの証券会社で購入可能です。
純資産総額はS&P500に連動する投資信託群の中でもトップクラスであり、トータルリターン(3年)も25.32%となっています。
信託報酬も0.0968%と低く、運用にかかるコストを気にする方にもおすすめです。
「S&P500に連動する投資信託を買いたいけど、何を買ったら良いのかわからない」という方におすすめの1本です。
SBIーSBI・V・S&P500インデックスファンド
SBIのSBI・V・S&P500インデックスファンド(SBIバンガード)も、投資初心者の方におすすめです。
◾️SBIーSBI・V・S&P500インデックスファンド 基本情報
基準価格 | 17,994円 |
---|---|
純資産総額 | 8,522億円 |
信託報酬 | 0.0938% |
トータルリターン(3年) | 25.19% |
設定日 | 2019年9月26日 |
(2023年4月18日時点)
前述したeMAXIS Slim米国株式(S&P500)と、SBIバンガードはS&P500に連動するインデックスファンドの中でもトップクラスの人気を誇っています。
「この二つはどこが違うの?」と疑問に思う方も多いはずです。eMAXIS SlimとSBIバンガードの一番の違いは、運用形態にあります。
eMAXIS Slimは、米国株式市場に直接投資を行います。一方でSBIバンガードは「バンガード・S&P500 ETF」というETFに投資を行います。
「バンガード・S&P500(VOO)」は、バンガードが運用するETF(上場している投資信託)ですが、これを個人が直接購入しようとすると1口35,000円程度からと少額投資が行えず、つみたてNISAの対象にもなりません。
そこで、手間をかけずに、少額から投資をしたい投資初心者の方向けに、SBIバンガードが誕生しました。
eMAXIS Slimと比較して、SBIバンガードの方が信託報酬が低めに設定されているので、コストにとことんこだわりたい方は、SBIバンガードを選ぶと良いでしょう。
ブラックロック-iシェアーズ 米国株式(S&P500)インデックス・ファンド
ブラックロックーiシェアーズ 米国株式(S&P500)インデックス・ファンドは、世界的に有名なブラックロックが運営する投資信託です。
◾️ブラックロックーiシェアーズ 米国株式(S&P500)インデックス・ファンド 基本情報
基準価格 | 37,061円 |
---|---|
純資産総額 | 184億 |
信託報酬 | 0.0938% |
トータルリターン(3年) | 24.73% |
設定日 | 2013年9月3日 |
(2023年4月18日時点)
ブラックロックとは耳慣れない単語ですが、世界最大規模の投資運営会社であり、約10兆ドル(約1,153兆円)もの資産を動かしています。 S&P500iシェアーズとは、ブラックロックのETFブランドです。補足すると、iシェアーズはETFのシェアが世界ナンバーワンとなっています。
そんなブラックロックのS&P500インデックス・ファンドは、純資産総額184億円と多く、信託報酬も0.0938%と低めの設定になっています。トータルリターンも3年で24.73%と好調です。
外国の投資会社が運用する投資信託に興味がある方、ほかの人が持っていないような銘柄に興味がある方はブラックロックのS&P500インデックス・ファンドを選ぶといいでしょう。
S&P500今後の見通しについて
S&P500の今後の見通しですが、短期的に上下しながらも緩やかに成長していくことが予想されます。
例えば最近では、2023年3月にクレディ・スイスが破綻したことをうけて、米国株式市場は大幅に下落しました。
具体的な数値をみると、約4,000ポイントであった指数が3,800ポイントまで下落したのです。しかし、4月現在S&P500指数は41,000ポイントまで回復しています。S&P500は、こうした短期的な上昇と下落を繰り返しながら、少しずつ右肩上がりに成長していくでしょう。
今後の注目したいポイントは、米国の利上げにあります。ニュースで「世界的なインフレ」という言葉を聞いたことがある方も多いはずです。
インフレとはモノやサービスの価格が上昇することです。好景気であれば、インフレは大きな問題ではありません。しかし、人々の賃金上昇率以上にモノやサービスの価格が上昇してしまうと、国民の生活苦につながります。そうならないために、政府は政策金利を引き上げてインフレをコントロールしようとします。
「金利を引き上げると株価は下がる」傾向にあります。そのため、今後もインフレ率の変動や政策金利の引き上げ、引き下げを受けて短期的に株価が上下することが予想されます。
投資初心者の方であれば、こうした短期的な下落に狼狽しないよう気を付けましょう。
つみたてNISAは長期的な保有を目的としているため、何年後、何十年後の資産を築くためのものです。
前出のチャートを見てもわかるように、米国株式市場は変動を繰り返しながら、緩やかに右肩上がりに成長しています。米国のGDPは年々増加しており、人口も順調に増え続けています。世界経済の要である米国株式市場は、今後も成長を続けていくでしょう。
よくある質問
S&P500の平均利回りはいくらですか?
S&P500に平均利回りはありません。通常分配金の出ない投資信託には、利回りは表示されないためです。S&P500に連動する投資信託は、分配金を出していないため利回り表示はありません。
通常分配金の出ない投資信託には、利回りは表示されない代わりに、騰落率やトータルリターンが表示されます。
騰落率は投資信託の価格がどのくらい値上がり、値下がりしたのかを表した数字です。この数字は毎営業日更新されます。
一方、トータルリターンは一定の期間を元に算出しています。月ごと、年ごとに数字が変わります。
つみたてNISAで投資信託を購入する際には、必ず確認したい項目です。
参考として、eMAXIS Slim米国株式(S&P500)の騰落率とトータルリターンを見てみましょう。
◾️eMAXIS Slim米国株式(S&P500)の騰落率とトータルリターン
騰落率 | トータルリターン | |
1週間 | +1.78% | - |
1ヵ月 | +4.85% | -0.24% |
6ヵ月 | +4.79% | +3.34% |
1年 | +1.22% | -2.62% |
3年 | +90.65% | +25.32% |
S&P500の指数は、前述したチャートを見ると分かる通り、上下を繰り返しながら、右肩上がりに成長しています。そのため、長期的に保有することでトータルリターンが大きくなります。
つみたてNISAを始めるときは、S&P500に連動したものだけ購入すればいいですか?
つみたてNISAを始めるときは、S&P500に連動したものだけを購入して問題ありません。
とはいえ、それでは地域的な分散ができないためリスクが大きくなってしまいます。投資のリスクを抑える基本は「分散投資」です。米国市場だけでなく、ほかの投資先を合わせて保有した方が価格が変動するリスクを抑えられます。
つみたてNISAに慣れてきて「ほかの投資信託も買ってみたい」「投資額を増やしたい」といった興味が出てきたら、ぜひほかの投資信託も検討してみてください。つみたてNISAは、各社とも幅広いラインナップをそろえています。
注意したいのが、投資信託に組み入れられている銘柄です。S&P500は、米国を代表する大企業で構成されています。そのため、ほかの株式型の投資信託を購入したときも、すでにS&P500で購入している銘柄が重なってしまっている可能性があります。
例えば「eMAXIS Slim 先進国株式インデックス」と「楽天・全世界株式インデックス・ファンド」の組み入れ上位10銘柄を見るとどちらも「Apple」「Amazon」「マイクロソフト」といった企業が並びます。違いとしてはeMAXIS Slimには「メタ」が入っており、楽天の方には「バークシャーハザウェイ」が入っている点だけです。
名前や運用している会社は異なりますが、中身が全く一緒では分散投資になりません。
つみたてNISAで銘柄を増やすときは、必ず投資先の国や企業を確認するようにしましょう。
S&P500にはどのような銘柄が組み込まれていますか?
S&P500は、米国株式市場の時価総額の大きい企業が組み込まれています。構成の上位10銘柄をピックアップしてみました。
◾️S&P500の上位10銘柄
アップル | 精密機器 |
---|---|
マイクロソフト | サービス業 |
アマゾンドットコム | 小売業 |
テスラ | 輸送用機器 |
アルファベットA | サービス業 |
アルファベットC | サービス業 |
バークシャーハザウェイ | サービス業 |
ユナイテッドヘルスグループ | 保険業 |
ジョンソンエンドジョンソン | 医薬品 |
エヌヴィディア | 精密機器 |
株式投資に詳しくない方でも、一度は耳にしたことのある大企業が名を連ねています。特に、上位6社は日本でもそのサービスや商品は有名です。
アルファベットとは、Googleを運営する親会社です。アルファベットAは議決権がり、アルファベットCには議決権がありません。エヌビディアは半導体メーカーであり、パソコン用のGPU以外にも自動車運転システムの開発を手掛けています。
S&P500の組み入れ銘柄は、米国株式市場、ひいては世界的な大企業で構成されていることがわかります。