浅生ハルミンの銀幕のkimonoスタア27 『長崎ぶらぶら節』の原田知世

『長崎ぶらぶら節』の原田知世

 この頃は、家のテレビやライブ配信で歌や踊りをたっぷり観ている。歌や踊りで元気を出して! という歌い手からのエールが、いつにも増して画面越しに伝わってきた。2020年は特別そういう年だったとつくづく感じたと同時に、歌や踊りは遠きご先祖様の時代から、万人をなだめたり鼓舞しつづけたりしてきたことを思い出した。『長崎ぶらぶら節』は長崎にあった有名な花街・丸山を舞台に、三味線も小唄うたもピカ一の名芸妓・愛八(吉永小百合)と郷土史研究家の古賀十二郎(渡哲也)が、長崎の古い歌を採集し旅する物語である。二人は明治から昭和を生きた実在の人物だ。愛八は困っている人がいると自分のことはあとまわしで手を差し伸べ、味方する情深い女性。相撲好きで、若い力士たちに家ですき焼きを振るまったり、悲しむ海軍の兵隊さんを土俵入りの型で元気づけるという場面は、愛八姐ねえさんの気前の良さをうかがわせる。

古賀は長崎の商家に生まれたものの、財産や家族に頓着しない。研究に没頭するうちに愛八と出会い、歌探しの旅に誘った。同じ目的に向かう男女が、恋に落ちる物語を想像するのはたやすいが、二人の行く道は……。鑑賞後、私は自分の心が汚れていることに苦笑した。おかしいなあ、私はなぜこうなってしまったのかしら。

愛八と古賀を彩る長崎の歌や風土文化を味わえるのがこの映画の特におもしろいところだった。丸山で唄い継がれるお座敷小唄を、艶あでやかな衣装を纏まとった吉永小百合や高島礼子、尾上 紫、原田知世が見事に見せてくれる。内海桂子のベテランでありつつ愛らしくとぼけた役回りもよかった。

なかでも、梅次(原田知世)の舞う「かんかんのう」は、とびきりのキュートさだ。梅次は愛八を助太刀するなど、ぷりぷり気を揉もむ妹分。長崎の言葉も、下げ駄たでいそいそと早歩きの仕草も、小唄「濱はまぶし」を唄うたうゆかしい声も、怒っている眉間の筋すらも可愛い。パフェに1粒添えたさくらんぼみたいに、主役ではないが特別にぴかぴかしていて、このシーンの瞬間を永遠に味わっていたいという気持ちになった。

実在の愛八さんの唄う「ぶらぶら節」をインターネットで聴いた。ノートパソコンでYouTubeを開き、脱衣所の洗濯機の上にセットする。そして私は肩まで湯につかる。湯気の中で聴く姐さんの節回しもまたいい感じで、最近の一番の愉しみとなった。

文、イラスト=浅生ハルミン

イラストレーター、エッセイスト。著書に『私は猫ストーカー』(洋泉社)、『三時のわたし』(本の雑誌社)などがある。これまでのイラストレーションの仕事を展示する企画展が、町田市民文学館にて2021年秋に開催予定。

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