文様のふ・し・ぎ 36  ほおずき

文様のふ・し・ぎ  ほおずき

 数年前まで東京で店を営んでいたのは、浅草まで歩いても数分の場所。浅草の夏の風物詩といえば浅草寺境内で行なわれるほおずき市だ。ズラリと並ぶほおずきの露店。ガラスの風鈴がチリチリンと涼しげな音を立てながら、あちこちから手招きをしているようだ。どの鉢にしようかと選びきれずに迷ってしまい、結局はパッと目についたものを手にしてそこでやっと安堵する。この日にお参りをすれば四万六千日の功徳が得られるといわれているが、さてそれはどうだったろう?

 店先に吊るしたほおずきの鉢の提灯のような朱色の形が、軽やかな風鈴の音とともにお客様を出迎える。暑い、暑いと隅田川まで出れば、川から吹く風が気持ち良く、スカッとするくらい空が広い。私の中ではどれも愛おしい東京の夏の景色として刻まれている。

文=長谷川ちえ エッセイスト、器と生活道具の店「in-kyo」店主。東京から移住した福島県三春町での暮らしを二十四節気に沿ってつづった『続・三春タイムズ』(信陽堂)が発売中。


イラスト=山本祐布子

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