文様のふ・し・ぎ 6 梅

 深呼吸をすると、冷たい空気の中に清らかで上品な香り。「あぁ春がやってきたんだなぁ」と感じさせてくれる梅の花。その高貴な香りところんと丸い蕾つぼみ、清楚な姿が子供のころから大好きだった。現在、日本の花見といえば桜。けれども庶民の間で定番化するのは江戸時代以降のことで、奈良時代までさかのぼると花といえば梅のこと。寒さの中、花開く梅の花は、忍耐力や生命力にあふれ『万葉集』や『古今和歌集』に数多く詠まれたことからも日本人を魅了していた様子がうかがえる。梅の文様で思い浮かぶのが天満宮の社文。梅をこよなく愛していた菅原道真は、死後、都に起きた天変地異を鎮めるために天満天神として祭られた。その後は天満宮の境内にも梅の木が多く植えられ、春先には梅祭りなども行なわれている。道真の句「東風吹かば 匂ひおこせよ梅の花 主なしとて 春を忘るな」。切ないが愛された梅も幸せだったに違いない。

 

 

【梅】厳しい寒さの中、いち早く花を咲かせ、実をたくさん付ける梅。梅文様は、忍耐力や生命力、子孫繁栄の象徴とされ、新春を代表する吉祥文様。その種類も多く、真っすぐの枝に花を付けた「槍梅」、花びらをねじった「ねじり梅」、梅花を正面から見た形を図案化した「梅鉢」などが代表的。

 

 

 

文=長谷川(旧姓:中川)ちえ
エッセイスト、器と道具の店「in-kyo」店主。店では、イベントやワークショップも定期的に開催。詳細はhttp://in-kyo.net/


イラスト=山本祐布子