第三十二回 琉球国奇観(部分)

第三十二回 琉球国奇観(部分)

 沖縄県の日本復帰から50年という節目の年を記念して、東京国立博物館、九州国立博物館の2会場で開催される特別展「琉球」。遡さかのぼれば7〜8世紀の中国・日本側文献に、沖縄のことと覚しき記述が現れるものの、当時の実態ははっきりしない。10〜12世紀頃には農耕が始まり、強力な首長も出現。14世紀に入ると分立する小国家が覇権を競い合い、1372年、初めて明王朝に入貢した中山王察度(さっと)が〈琉球〉を名乗ったことをもって、その名の始まりとする。以後、明治政府による「琉球処分」によって沖縄県が設置され、国王尚泰が首里城を明け渡す1879年までの約500年間、沖縄の公式名称であった。

 特別展ではその独自の歴史と文化を、王国時代の歴史資料・工芸作品、国王尚家に伝わる宝物に加え、考古遺物や民俗工芸品にいたる文化財を通じて、総合的に紹介する。そうした展示作品の中の一つが、奄美大島の自然や習俗を記録した絵巻《琉球国奇観》だ。

 さまざまな場面があり、会期中にも場面替えが予定されているが、今回ピックアップしたのは「八月踊」のシーン。八月踊とは、鹿児島県の大隅半島、奄美大島や喜界島などの薩南(さつなん)諸島、沖縄県の沖縄本島、宮古列島の多良間島など、広い地域で旧暦8月の収穫祭に踊られる踊りのこと。地域によって内容が異なるが、この絵巻では男女が円陣を組んで歌い踊っている。囃は や子しはツヅンと呼ばれる馬の革を両面に張った締め太鼓だけ。いささかわかりにくいが、男性は総髪で頭頂部に欹(かたかしら)髻と呼ばれる中国風の小さな髷(まげ)を結い、短い簪(かんざし)を挿している。女性はそれより高く大きな髷で、簪も長い。

 着ているものも、王府が保護した古典舞踊の琉球舞踊でまとうような華やかな紅型衣裳ではなく、無地や縞、格子などの日常着だ。絵巻中の別の場面では、こうした衣服だけを取り上げて解説しているが、そこでは芭蕉の糸を「自績自織」したものとしている。

イトバショウの繊維を手績みして撚りをかけ、琉球藍や自生のテカチ(シャリンバイ)で先染めし、手織機で平織したものが、いわゆる芭蕉布だ。目が粗く通気性があり、肌に触れるとひやりとして心地いいため、夏の衣料として重宝された。琉球王国時代には、紬、上布などとともに課税の対象とされ、広い地域でつくられていたが、農民には過酷な労働がのしかかった。時は移り、現在では生産量を大きく減らしており、高級な夏着尺として取引される、「憧れの布」だ。

 

 

文、選定=橋本麻里

はしもと・まり日本美術を主な領域とする ライター、エディター。公益財団法人永青文庫副館長。金沢工業大学客員教授。2022年秋に予定されている[世界を変えた書物]展の凱旋(がいせん)展に向け、展示や図録を準備中。

 

 

沖縄復帰50年記念特別展「琉球」

会場/九州国立博物館(福岡県太宰府市石坂4-7-2)

会期/2022年7月16日(土)~9月4日(日)

開館時間/9:30~17:00(金曜、土曜は~20:00)(最終入場は閉館30分前まで)

休館日/月曜(7月18日、8月15日は開館、7月19日は休館)

観覧料/一般1900円

問い合わせ先/☎050-5542-8600(ハローダイヤル)

https://tsumugu.yomiuri.co.jp/ryukyu2022/

※最新の情報はHPをご確認ください。

※本展は6月26日(日)まで東京国立博物館 平成館で開催中。

 

 

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