第二十八回 人生の花

第二十八回 人生の花

 

 

 

 女性の平均初婚年齢は2014年から横ばいの29・4歳(人口動態統計月報年計)。1995年は26・3歳だったので、20年で約3歳の晩婚化が進んだが、一応このあたりで下げ止まった、と見られている。そして晩婚化と同期した現象ではないかと考えられているトレンドが、和装婚の増加だ。「ゼクシィ結婚トレンド調査」によると、30歳以上の結婚式全体における神前式の割合は、2012年に20・3%だったものが、17年には27・3%と7ポイント上昇。オトナ婚では格式を重んじ、神前+和装という選択が増えているらしい。

 白無垢に角隠しという婚礼衣裳が定番化したのは、室町時代。武家礼法の流派である伊勢流の故実書に、練絹の白小袖に幸菱模様を織り出した白小袖を打掛として重ねるスタイルが記されており、これが江戸時代までに一般化していったらしい。色直しの衣裳は、室町時代では白無垢姿で2日間過ごし、3日目に色物に着替えた、あるいは三三九度の儀式後すぐ、婿方から贈られた小袖(打掛)に着替えた、などさまざまなパターンがあった。明治に入ると、白無垢を着る風習が廃れ、色直しに用いた黒紋付裾模様が、婚礼の衣裳になっていく。

 まさにその、黒紋付裾模様の振袖に、矢立に結んだ重厚な帯、揚帽子と花かんざしで装った初々しい花嫁の姿を描いたのが、上村松園による《人生の花》である。松園が20代半ばで発表した大作で、1900(明治33)年の第9回日本絵画協会・第4回日本美術院連合共進会で銀牌を得た《花ざかり》(現在は所在不明)と類似の図様の異作だと考えられている。《花ざかり》は、松園の祖父が支配人を務めていた呉服商「ちきり屋」の息女の婚礼にあたり、「その時代にまだ京都に残っていました花嫁風俗を描いたもの」で、「『つうさんは絵を描くし、器用だし、ひとつ着つけその他の世話をして貰もらえないか』と、ちきり屋の両親にたのまれましたので、その嫁入り手伝いに出掛けた折り、花こうがい、

文、選定=橋本麻里

はしもと・まり  日本美術を領域とするライタ ー 、エディター。公益財団法人永青文庫副館長。「有職(ゆうそく)組紐 道明」をテーマにした展覧会を仕込み中。ただし展示は海外、その上コロナ禍の影響で延期の可能性もありと、先が見えない中で準備中です。

 

 

京都市京セラ美術館開館1周年記念展 上村松園

会場/京都市京セラ美術館 本館 北回廊1階

(京都府京都市左京区岡崎円勝寺町124)

会期/前期展示:2021年7月17日(土)~8月15日(日)

後期展示:2021年8月17日(火)~9月12日(日)

※会期中展示替えあり。《人生の花》は通期展示。

開館時間/10:00~18:00(最終入館は閉館30分前まで)

休館日/月曜(祝日の場合は開館)

観覧料/一般1800円

問い合わせ先/☎075-771-4334

https://kyotocity-kyocera.museum/

※最新の情報はHPをご確認ください。

 

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