新 手仕事ニッポン16

飴細工の金魚 (東京都・浅草)

宙を泳ぐ魚。

 なんともみずみずしい。繊細でしなやかな尾びれを揺らし、今にも泳ぎだしそうだ。しかし、食い入るように見つめても、静かなまま。これは、甘い飴なのである。

  熱した水飴(あめ)を素手で棒に取り、手と和鋏(わばさみ) を使いながら命を吹き込んでいく。最初は透明な塊。それを職人がそっと指で凹(へこ) ませ、伸ばし引っ張り上げて、鋏で整え、ものの数分で美しい魚に変身させる。 

 江戸時代から、町場の屋台にお目見えしたというこの手仕事。単なる飴に技巧を加え、さらに面前でパフォーマンスをする目的は、ただ一つ。行き交う人々の足を止めさせ、どれだけ客を引き寄せられるかということに尽きる。商売の策として誰ぞが生み出した技術が、飴細工に工芸品のような付加価値を与え、商売が上向くことで、職人も増え、商いは全国へ広がった。なんとおもしろい歴史だろう。

 町に立つ名もなき職人は、昭和を境にほぼ見られなくなったが、今、東京にはその技巧を伝統的工芸に昇華すべく、鍛錬を重ねる飴細工職人が次々と生まれている。

  かつて、細工の始まりは、もっぱら空を飛ぶ鳥を模したものだったそうだ。形状がそのまま愛称となり、「飴の鳥」あるいは「鳥飴」などと呼ばれて親しまれていた飴細工。やがては犬や猫、花々など季節の風流を取り入れていくのだが、さて、今私の手元には金魚がいる。思わず水に放ってあげたい衝動を抑え、一方で口に含むこともはばかられ、ただ途方に暮れて、宙を泳ぐ美しい魚を見つめている。

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浅草に本店と工房の看板を掲げる「飴細工アメシン」の創業は2013年。飴細工師で手仕事ある手塚新理さんは、花火師を経てこの世界に入った。従来の飴細工は、水飴を練って空気を含ませてから細工するため着色前は白い色をしているが、「アメシン」は、材料の温度管理や独自技法で、クリスタルのような透明に仕上げる。金魚3980円。飴細工の販売はソラマチ店のみ。http://www.ame-shin.com/

 

 

文、セレクト=つるやももこ 撮影=尾嶝 太

つるや・ももこ 旅や人、手仕事などをテーマに取材・執筆を手がける編集者。最近初めて韓国へ。韓方と呼ばれる、韓国の伝統的薬草療法について興味津々。