浅生ハルミンの銀幕のkimonoスタア7 『黒い十人の女』

 見たあとに「君らとは友達になれなさそう。でも、なんかよかった」と思う映画はいいな。現実の世界では角が立たないようにテキトーに丸くなっておこうという考えが身についているから、勝手な想像ですが、つくりたいようにつくられた、あるがままの映画に、「いいもの見た」と、すがすがしい気分が生じるのではないだろうか。

 この作品は、まさにそのような映画だった。ハナ肇とクレイジー・キャッツの『無責任一代男』が大流行していた時代。テレビプロデューサー・風松吉という軽薄男を船越英二が演じて、空虚なまなざしや鼻にかかった声が役とぴったりだった。スピード時代の業界をすり抜け、愛人に決してまともに取り合おうとしない不ふ 埓らちなやつ。彼は仕事場で「風ちゃん」と呼ばれている。風ちゃんには妻(山本富士子)のほかに9人も愛人がいるのだが、あるとき女たちは復ふくしゅう讐を企てる。そうとも知らず、テレビ局の屋上で別の人を口説く風ちゃん。そんな塩梅で私は「女たちよ、うまくやれ」と単純に賛同したくなるかと思いきや、彼女らのいたずらっぽくてテンポのいいせりふがそうはさせてくれないのである。「睡眠薬で殺しちゃおっか」「ピストルがいいわよ」「あたくしあのピストルの形がイヤ」「絞めちゃおか」「本当に殺しちゃおうか」「あなたが?」「あーたがやればいい」「いやぁよ、気持ちが悪い……」。嘘? 本当!? 深刻ではないおしゃれな殺人! 斬新な構図やミステリアスなモノトーンの映像、かっこいい化粧や乳液の瓶、女優(岸 惠子)の住む部屋を眺めるうちに、これはいいものを見ているぞという高揚感に包まれた。

 なぜ「十人」なのかはわからない。でもそこがいい。十人の美女が風ちゃんを取り囲むシーンはシュールレアリスムみたいだった。市川 崑監督は「自己疎外の状態にある現代人(私も含む)の人間が人間でありたい、というノスタルジーの物語」を描きたかったという。この中で着物を着るのは3人(山本富士子、宮城まり子、岸 惠子)。彼女たちは風ちゃんに対して少なくとも体当たりだった。この映画の中の着物の役割は、人間的なノスタルジーをつなぎ留めることなのかもしれない。

 

 『黒い十人の女』
1961年公開、市川 崑監督作品。
自由奔放なモテ男に翻弄されながら、復讐を企てる10人の女の物語。
若き日の山本富士子、岸惠子、中村玉緒、岸田今日子のフレッシュな美しさも見どころ。
DVD発売中/3024円/発売・販売元:株式会社KADOKAWA

 

 

 

文、イラスト=浅生ハルミン

あさお・はるみん 三重県生まれ。雑誌や書籍などで活躍中のイラストレーター、エッセイスト。
著書多数で、中でも『私は猫ストーカー』(洋泉社)は、2009年映画化され、話題に。
近著にパラパラ漫画『猫のパラパラブックス』シリーズ(青幻舎)。

Vol.45はこちら