文様のふ・し・ぎ 31  瑞雲

文様のふ・し・ぎ 瑞雲

東京から福島県の三春町へ移住して、早いものでこの春で丸6年になる。引越しをして間もない頃は、高層ビルもスカイツリーもなく視界を遮ぎるものがない広い空を、ぼんやりとよく見上げていた。そしてそれは今でも癖のようになっている。

 雲ひとつない青空の日もあるが、様々な形をした雲がプカプカと浮かんでいる様子を、動物やら食べものやらと何かに見立てていると、子どもの頃のように心が弾む。この町では龍の姿に似た雲を見かけることが度々あって、その雲を見かけたときなどは、何かいいことがある知らせだと、勝手に思い込んでいる。そしてその龍の雲が駆け抜けた空の先は、友人たちが暮らす馴染みのある町へと繋がっていると思いめぐらし、幸せな気持ちに満たされる。

 吉祥の雲はないかと今日も空を見上げれば、自然と口角が上がっている。

 

 

 

文=長谷川ちえ   エッセイスト、器と生活道具の店「in-kyo」店主。近著に二十四節気に沿った季節をめぐるエッセー『三春タイムズ』(信陽堂)。挿画は素描家・shunshunさん。


イラスト=山本祐布子

Vol.69はこちら