文様のふ・し・ぎ 15 藤

藤といえば以前に住んでいた家の近くの公園には入り口に藤棚があり、花の季節を迎えると甘い香りを漂わせ、優美なのれんで出迎えてくれたことを思い出す。『古事記』の中では男神が藤の蔓つるで作った衣服をまとい、女神の心を射止めたという話が書かれ、また『万葉集』の中でも高貴な色としていくつも歌が詠まれていることからも、古く人々に親しまれていたことがうかがえる。藤は繁殖力が強く、他の樹木に絡みながら蔓を伸ばしていく様子から長寿や子孫繁栄の象徴、また房状の花を稲穂に見立て豊作を願うなど縁起の良いものとされていた。文様の世界でも「ふじ=不二・不死」につながること、また平安時代に栄華を極めた藤原氏にちなんで、公家社会のさまざまな装束に藤の文様が用いられたことから、江戸時代には人気の家紋のひとつになった。公家をはじめ庶民まで幅広い層に愛された藤。幸せを運ぶしとやかさを文様に託して身につけたい。

 

【藤文様】

春から初夏にかけて、淡い紫や白い色の花を咲かせるかれんな藤。桜が終われば藤の花といわれ、着物や帯の柄としても人気。古くから日本に自生しており、豊作、子孫繁栄を願う文様として愛されてきた。また、平安時代より、公家社会でさまざまな装束に用いられた有職(ゆうそく)文様でもある。

文=長谷川ちえ
エッセイスト、エッセイスト、器と生活道具の店「in-kyo」店主。移転先の福島県三春町は歴史のある寺院も多く町歩きが楽しい。http://in-kyo.net/


イラスト=山本祐布子

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