文様のふ・し・ぎ 13 月

澄んだ夜空に浮かぶ満月。中秋の名月には観賞の宴うたげを催していたという平安時代の貴族でもあれば、ここで一句詠むところだろうが、私は明るく照らす光の美しさにただただ見ほれるばかり。

 古くから詩歌などで親しまれたように、新月にはじまり半月、三日月など月の満ち欠けや、おぼろ月などの現象は文様の世界でも好まれ、さまざまな意匠を目にすることができる。たとえシンプルに描かれた円でも、秋草やうさぎ、鹿などと組み合わせることで満月として見立てられることからも、日本人の心の豊かさが感じられる。

 月にまつわる言葉も数多く、宵待や十五夜の後、月がためらうように顔をのぞかせる様子に言葉を重ねた十六夜。花鳥風月や海に映る月の景色を表す海月風流な言葉には優雅な響きも含まれる。

 人々の日々の暮らしとも密接に関わり合いながら文様や言葉で表現されるのは、手の届かない空のかなたで輝く月の美しさに万人が引かれるからかもしれない。

 

【月】

古くから、人々の信仰の対象となっている月と太陽。陰陽(おんよう)道がさかんになった平安時代より図案化され、文様として使われるように。同じ円でも、太陽と見立てたものは、家紋や陣羽織などに見られ、女性の着物には用いられない。反して月は、風景の一部として意匠化され、女性に愛されてきた。

文=長谷川ちえ
エッセイスト、エッセイスト、器と生活道具の店「in-kyo」店主。移転先の福島県三春町は歴史のある寺院も多く町歩きが楽しい。http://in-kyo.net/


イラスト=山本祐布子

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