えんぎもの 2019春

 ソメイヨシノの開花予想が、連日天気予報を賑(にぎ)わしている。仕事の行き帰りに近所の桜の枝を眺めては、まだつぼみが固いなぁ、と開花を待ちわびている。

 田植え前に咲く桜の花。桜の「さ」は稲、「くら」は神が宿る座を意味すると言われる。すなわち桜の木には五穀豊穣(ほうじょう)の神が宿っており、古来、日本人は豊作を願って花見の宴(うたげ)を催してきた。季節のはじまりである春に咲き、新しい門出を意味する縁起ものである。結納の席では桜茶が出される。塩漬けされた八重桜が湯の中でふわーっと花開いていく。未来が開けていく。

 平安の歌人が〝花〞といえば、それは桜だった。もっともその桜はソメイヨシノではなかったのだが、桜を愛(め)でる心は日本人のDNAにくっきりと刻まれている、などと改めて言うのも野暮だろうか。

 桜柄を身に着ける時季については、さまざまな考え方がある。

 作家の宇野千代のエッセイにこんな一文がある。「私は桜が大好きである。その単純明快な形が好きである。(中略)さくらの単純明快な形が、その組み合わせによって、さまざまな表情を生み出す面白さ、その美しさ、そこに私は尽きることのない魅力を感じるのである」(『私は夢を見るのが上手』より)。そうい

って、ことあるごとに桜柄を身に着けた。彼女ぐらいきっぱりと、好きなものは好き、と言えるなら、自由に堂々と着たらいいと思う。

イラスト=川口澄子 文=編集部

 

 

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