えんぎもの 2016秋

 お囃子(はやし)の音が近づいてくると、血がざわめく。秋祭りのシーズン到来だ。綿菓子、たこ焼き、射的にリンゴ飴(あめ)……。ずらりと並んだ夜店は妖しい光で子供を呼び込む。

 その屋台の中に必ずお面を売っている店がある。最近流行のアニメのキャラクターやらヒーローものに交じって、今でも見かけるのが、おかめやひょっとこのそれだ。

 しもぶくれで、鼻が低く、まなじりの下がった愛嬌(あいきょう)のある女と、口を突き出したどんぐり眼の男の面は、古くは能や舞楽に登場した道化役だそうだ。おかめ(お多福)は『古事記』にも描かれたアメノウズメ( 天岩戸に隠れた天照大神を踊りで誘い出した踊り子)で、ひょっとこは〝火男〞が訛(なま)ったものといわれ、竈(かまど)の火を竹筒で吹く男の姿を表す。

 これが次第に里神楽に採り入れられ、日本中に広まったという。

 愛嬌のあるおかめ顔を〝ブサイク〞などと言うなかれ、もともとは日本美人の典型だったのだ。顔の形が水(富)を蓄える甕(かめ)に似ている。ふっくらと豊かでみずみずしいその顔立ちこそ、女性の徳分とされていたのである。お多福の「多」は「田」に繋(つな)がり、満々と水をたたえて豊かな実りをもたらす源。一方のひょっとこは古くから竈の神様として信仰を集め、家内繁栄の象徴とされた。

 水と火それぞれを崇(あが)め、福をもたらす剽軽(ひょうきん)な男女の舞は、人々を笑顔にする家庭円満のシンボル。その滑稽な姿、思う存分笑って福を招きたい。

イラスト=川口澄子 文=編集部