えんぎもの 春

トカゲによく似た生き物が、よく田舎の家の窓辺に張り付いていて、子供のころ、木の枝で突いていたずらをしようとしたら、おばあちゃんに「ヤモリをいじめちゃあ、バチが当たるよ」とたしなめられたことがある。「どうしてバチが当たるの?」と聞いたら、「ヤモリはおうちを守ってくれるんだよ」と言われて、ふぅーんと返事をした。

その当時はまだよく意味を理解していなかったのだが、それ以来、なんとなくその爬虫類(はちゅうるい)に愛着を持つようになった。もちろん、好き嫌いは分かれると思うが、ペットにしている人も多いらしい。よく見ると、大きな眼(まなこ)や動き方に愛嬌(あいきょう)があるのだ。

実際、ヤモリは家の害虫を捕まえて食べてくれるし、臆病で人間には害を与えないので、ヤモリが長く居着いている家は安全とされてきた。“家守”や“守宮”などと当て字を付されることも多い。

日本に限らず、東南アジアなどでも幸福のシンボルとされているヤモリは、バティックの柄などに描かれることも多い。

よく似ているけれども、“イモリ”には“井守”の当て字。すなわち井戸を守ってくれるぐらいだから、こちらは両生類。古くからヤモリもイモリも日本人にはなじみ深い、縁起のいい動物だったのだ。

家にぺたりと張り付き、じっと家を見守ってくれるヤモリ。ほ~ら、だんだん可愛らしく思えてきたでしょう?

イラスト=川口澄子 文=編集部