新 手仕事ニッポン26

「わら細工」の祝亀(宮崎県・日之影町)

 固く編まれた甲羅に、たわわな稲穂をふさふ さ揺らしながら、今にも歩き出しそうな。こん にちは、亀さん。ほんのりわらの香りがすると、 ついそう呼び掛けたくなる。 「祝亀」と呼ばれるこの縁起ものは、長寿や継 続の象徴として昔から親しまれてきた。畳でさ え姿を消しつつある現代だが、一年を通してし め縄を飾る町、宮崎県・日之影町で「祝亀」は つくられている。天孫降臨の地とも呼ばれる高 千穂郷にあるこの町で、 年以上続く「わら細 工 たくぼ」の三代目は、地域の人々の手を借 りながら、暮らしの中に採り入れられるわら細 工を手がける。米を食べて暮らしてきた日本人 にとって親しみ深い、稲作の副産物であるわら は、自然と現代の人々に改めて受け入れられた。

 素材となるわらは、空から降りてくるはずも なく、種から大切に育てる。そんなわけで、わ ら細工をつくるよりも農作業に多くの時間と手 間をかけるが、特にこの「祝亀」は、選ばれし 美しいわらのみを使用してつくるそう。甲羅に は、稲穂を支える芯の部分が使われるが、1本 の稲から1本しか取れない。強度のある貴重な わらだからこそ、押してもきしっと耐える立体的な甲羅を編むことができる。稲穂は、長寿の象徴である蓑亀の藻のように、長く、ふっくら と垂れるよう、1本ずつ甲羅に挿していく。愛 情たっぷりに育ったわらは、こうして温かみの ある立派な亀になっていく。

  玄関に飾って、いってきますと声を掛ける。少しずつ琥珀色に変わる亀を敬いながら、お互 いゆっくり、年を重ねていこう。

文=編集部 撮影=尾嶝 太

「新・手仕事ニッポン」は、今回で最終回 を迎えました。6年にわたる連載の中で 出会えた、日本のものづくりの未来をつ なぐさまざまな人の手仕事に感服しま した。ありがとうございました!

Vol.64はこちら