浅生ハルミンの銀幕のkimonoスタア49『銀座二十四帖(ちょう)』の月丘夢路

『銀座二十四帖(ちょう)』の月丘夢路

舞台は昭和三十年の銀座。ヒロインの京極和歌子(月丘夢路)は少女時代を満州で過ごした。戦時中に自分を描いてくれた青年画家のことが忘れられない。油絵に残る「G.M.」のサインを手がかりに、銀座の花売り・通称コニイ(三橋達也)がその人物を追う。

目を奪われるのは、ファッションモデル志望の姪(めい)・雪乃(北原三枝)の『VOGUE』から抜け出たような装いだ。飛び抜けたスタイルの良さとあいまって、とんでもなくかっこいい。一方の和歌子は、外交官令嬢らしい上品な着物姿。色彩のないモノクロの画面の中でも、コントラストの効いた着物のスタイリングが華やか。フランスかぶれのキザな画家まで登場して、銀座中が憧れのおしゃれに溢(あふ)れている。

この映画のもうひとつの主人公は銀座の街そのものだ。森繁久彌が軽妙なジョッキー役となり、雲の上から街を見下ろすような口調で、ときおり物語を離れ、銀座の地理歴史を案内してくれる。その合間に映る空撮映像が、銀座中央通りを一丁目から七丁目、汐留あたりまでを辿(たど)る。その眺めは、まだ存在しなかったGoogleマップを眺めているようで、いつまでも飽きない。これから高度経済成長を迎えるひとつの街の、貴重な映像記録である。

和光、三越、松屋銀座、三愛……大通りには堂々たるビルが並び、一本裏へ入ると低い屋根が肩を寄せ合っている。終戦からまだ十年しか経(た)っていないのに、街は急速に前に進んでいる。森繁久彌は「銀座の雀(すずめ)」を唄う。そこでは「故郷」が唄われる。銀座は全国から人が集まり、憧れや夢を生む都会だ。でも戦争でこの街を離れた人が再びここに帰ってきた時、この故郷を強く抱きしめたのではないか。しみじみした唄声から、そんなことを思った。

銀座四丁目を過ぎると松坂屋が現れる。いまのGINZA SIXが建つ場所である。東側に横長の壁のようなビルが見える。当時、「東京温泉」という一大娯楽施設(とくに紳士に人気)だったそうだ。その一角にコニイの営む生花店「コニーの店」がある。

そこで私は家の本棚から、画家の木村荘八編著の『銀座界隈(かいわい)』(昭和二十九年刊)を取り出した。一軒一軒の店名まで記録された街路図で、その場所をあたってみる。すると、東京温泉の向かいに映画館があり、その名が「銀座コニー劇場」だった。生花店コニーと映画館コニー。これは偶然だろうか。それとも、当時の銀座の人なら誰もが気づくおしゃれな遊びだろうか。いますぐ昭和三十年へタイムスリップして確かめてみたい。

文、イラスト=浅生ハルミン

あさお・はるみん イラストレーター、エッセイスト。『本の雑誌』(本の雑誌社)に「こけし始めました」、『TASC MONTHLY』(公益財団法人たばこ総合研究センター)に「嗜(たしな)む街角」を連載中。銀座といえば、中央通りにお店があったころ、「銀座くのや本店」さんの2階の間に一度だけお邪魔したことがあります。大人の女になったと思いました。「くのや」さん、この映画にもちらりと映ります。

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