文様のふ・し・ぎ 糸巻き

今でもふと、子供の頃に見ていた風景を思い出すことがある。町にあった何軒かの手芸店。毛糸が揃っているお店もあれば、プリント生地やフェルト生地がズラリと並ぶお店もあった。それぞれ特徴が違うそれらのお店を、手芸好きの友人とハシゴするのが当時の楽しみだった。
そのうちの一軒に、様々な糸とボタンが所狭しと並ぶ小さなお店があった。おばあさんが一人で営んでいて、入り口はガラスが入った木枠の引き戸。こぢんまりとした佇まいも丸ごとお気に入りだった。壁沿いの棚に、色や素材ごとにきれいに整列していた糸巻きを、飽きることなく眺めていた子供。それでも店主は叱ることなどはせずにいてくれた。
どのお店も今は跡形もなく、町は時代とともに景色を塗り替えている。それでも記憶の糸を手繰り寄せれば、いつでもどこでもあの頃の風景へと辿(たど)り着くことができるのだ。
文=長谷川ちえ エッセイスト、器と生活道具の店「in-kyo」店主。2026年10月16日~25日には「綯屋(ないや)」横畠梨絵さんによる箒(ほうき)の展示会を開催。詳細はInstagram@miharuno.inkyoにて。
イラスト=山本祐布子