浅生ハルミンの銀幕のkimonoスタア19 『女の賭場』の江波杏子

『女の賭場』は男のずるさと弱さに負けそうになりながらも立ち上がる女賭博師の、スタア誕生の映画だ。84分という短さに面白さが凝縮されていて、人気シリーズになるはずだなあ! と思った次第です。 アキ(江波杏子)の父親は昔気か た質ぎの名賭博師だったが、罠わなに陥れられて命を絶った。賭博から身を引いていたアキは、小料理屋のおかみさんをしていて、会社員の恋人と地道な幸せを掴つかもうとしている。ところが真面目だった弟が任侠の世界をうろついたり、父を陥れたヤクザの立花鉄次(渡辺文雄)に迫られたり、恋人に疑われたりして、思い描いた幸せのはしごをはずされていく。世間でも美人賭博師が流は行やっていた。立花は新しい商売になると思ったのか、はたまたアキを支配したかったのか、自分と組んで花札を切れとアキをけしかけ、あくどい手を使って追い詰めるのだ。 アキはついに立ち上がる。夜通し、花札さばきの特訓を受けるアキ。亡き父の墓に手を合わせて復ふく讐しゅうを誓うアキ。降りかかった不幸のすべてが〝女賭博師ふたたびの舞台へ〞の花道だったんだと感じられて、映画の興奮へと一息に持っていかれた。 カタギに暮らしているときのアキの着物は、ホームドラマのような山手奥様風。しかし「絶対にこのままでは終わらなそうだぞ。その奥様風のお召し物は仮初めの姿なんでしょう?」と波乱を予感させるのは、江波杏子さんのエキゾチックな顔立ちがあるからこそと思う。ついに賭場に立ったときには、三さん蓋松の家紋の入った喪服に縞しまの羽織を片身に引っ掛け、奥様風から一変するのである。 宿敵・立花がアキに向かってこんなことを言う。「俺は胴師(賭場で花札を切る役目)という職業は女にはできないものと思ってた。(中略)だがあんたは別さ。その顔で眉ひとつ動かさずに札を繰っている。それが男の心を揺さぶり勘を狂わせるんだ」 アキが「入ります」と肝の据わった声で札を切る場面では、わずかな表情の変化からいかさまを見抜こうと探る苦み走った男の顔と、そう知っていて駆け引きをするアキの顔をカメラが大きくとらえる。勝負の瞬間の張りつめた空気にドキドキが止やまない。厚みのあるつけまつげを施したクールなまなざし、それを引き立てる肌色に近い頰と口紅の色。硬質な美貌に釘くぎづけになってしまった。

文、イラスト=浅生ハルミン

あさお・はるみん 三重県生まれ。雑誌や書籍などで活躍中のイラストレーター、エッセイスト。
著書多数で、中でも『私は猫ストーカー』(洋泉社)は、2009年映画化され、話題に。
近著にパラパラ漫画『猫のパラパラブックス』シリーズ(青幻舎)。

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