えんぎもの 2019秋

 白馬に跨(また)がった王子様に憧れるようなガラではないのだが、馬上の騎士はやっぱり格好いい。馬に乗れる人は古今東西位が高いし、戦場でも騎馬は、大将やその側近、あるいは騎兵隊など限られた身分に許されたことだ。天下を狙い験を担ぐ者が、縁起の悪い動物と戦地で行動をともにするはずもない。
 古来、馬は縁起の良い動物だ。ギリシャ神話の天馬(ペガサス)はひと蹴りで霊泉を湧き出させたとされる。日本の神事では、神の乗り物として神馬(しんめ)が奉納されてきた。それを簡略化し、木の板に馬を描いて奉納したのが絵馬のはじまり。馬は時には戦友として、時には農作業や輸送の相棒として、人々の生活に欠かせない身近な動物として大切に扱われてきた。
 将棋で桂馬(けいま)は敵陣に入れば「金」になる。また置物などでよく見かける、馬の字を左右反転させた「左馬」は、福を招くシンボルとされている。実は馬には右側から乗ろうとすると転ぶ習性がある。だから必ず左側から騎乗する。「左馬」は倒れない、すなわち、つまずくことなく人生を歩めるという、めでたい置物なのだ。さらに、〝うま〟を逆に読めば〝まう〟、すなわち〝舞う〟。古来、舞は祝い事の席で催されてきたことにもあやかっているのだとか。
 活発に走り回る姿は行動力ある〝陽〟のイメージがあり、人気運を高めるとも。颯爽(さっそう)と馬に乗る姿にカリスマ性を覚えるのは、そんなパワーも影響しているのかもしれない。。

イラスト=川口澄子 文=編集部

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