子供の「なぜだろう」を「なぜなら」に変える教室

ロジカルシンキングを学ぶ小学生たち

4~6年生が受けているロジムの「ロジカルシンキング」の授業。
生徒たちと対話しながら、授業が進んでいく。
説明を聞いたら、練習問題に挑戦。ロジカルシンキングの演習問題は、ほとんどが記述式だ。
「ロジカルシンキングの授業は、みんなで意見を言って話し合ったりしながら、自分の意見を考えていくのがおもしろいと思っています」という5年生のあすかさん。家でもニュースを見ると、その背景にはどんな問題があるのかなど、お母さんとよく話し合っているのだとか。

「『今日は雪だ。だからプールに入った』というと、おかしいよね? でも、何か前提があると、相手を納得させることができるんだ。何が入るかな?」

「寒かったから、温水プールに入ったとすれば、おかしくないよ!」

「そうだね。『寒い日は、温水プールに入る』という前提があれば、おかしくないよね」

これはロジカルシンキングを教える授業の一コマ。AならばB、BならばC、よってAならばCという「演繹法(三段論法)」における「前提」を説明しているくだりです。

ロジカルシンキングとは、論理的思考力のこと。複雑なことを誰にでもわかるように説明するための技術で、ビジネスに有効な課題解決のための思考法だ。社会人になってロジカルシンキングの研修を受けたり、本を読んだことがある方なら、演繹法は初歩的なロジックとしてご存知の方も多いかもしれません。しかし、この授業を受けているのが小学生と聞いたら、ちょっと驚くのではないでしょうか? 

2004年に設立した学習塾「ロジム」(東京都)では、算数・国語・理科・社会の4教科に加えて、ロジカルシンキングの授業を行っています。以前、取材でお世話になったパパ料理研究家の滝村雅晴さんに「おもしろい塾があるよ」と教えていただき、見学に行ったのです。今回お邪魔したのは高学年向けのクラスですが、小学校1年生から基本的には同じ内容を例題のレベルを変えて教えているそうです。

それにしてもなぜ、小学生にビジネスマンが学ぶようなロジカルシンキングを教えているのでしょうか? その理由を塾長の苅野進氏と事務局長の野村竜一先生は「自ら考え、行動できる、未来の日本を背負って立つような人材を育てるため」と話します。経営コンサルタント会社出身の彼らは、日本のビジネスマンがロジカルシンキングにもとづいた問題解決能力や交渉力が低いこと、たとえ、ロジックを知っていても「型」通りに自己主張するばかりで、相手の立場を理解して意思疎通をスムーズにするような血が通った使い方ができていないことを実感。早期からのトレーニングの必要性を感じて、ロジムを開設したそうです。

ロジカル・キッズが中学受験に強い理由

社会にでて役立つ能力を身につけさせよとスタートしたロジムですが、設立当初から御三家に合格者を続出するなど「中学受験に強い塾」として、保護者から思わぬ注目を浴びるようになりました。

「私立中学のなかでもトップ校の入試問題では、知識があるだけでは解けない、論理的思考力を問う出題が多い。そういった問題を解くのに、ロジカルシンキングは最適だったのです」(苅野塾長)

たとえば、2013年に麻布中学の入試で出題された、有名な「ドラえもん」問題。「ドラえもんが生物として認められない理由」を問う記述問題で、大人でも意表を突く内容にネット上などで話題となりました。この問題には、前段に、「自分と外界とを区別する境目をもつ」「自身が成長したり、子をつくったりする」「エネルギーをたくわえたり、使ったりするしくみをもっている」という「生物の定義」が書かれた問題文がありました。これを読めば、演繹法をトレーニングしてきたロジムの生徒なら、「自身が成長したり、子をつくったりしないから(生物として認められない)」という回答を導き出すのは、朝飯前というわけです。

さらに、論理的に考えるクセがつくと、受験に不可欠な<暗記>も容易になるといいます。今回見学したロジカルトレーニングのクラスを担当し、理科も教えている岩沢剛明先生は次のように説明してくれました。

「そのまま暗記しようとすると、あまりにも量が多いため苦手意識を持つ生徒が多い『植物の種類』。これも、たとえば『植物は大きくわけて、双子葉植物と単子葉植物がある』と論理的に整理して分類し、その特徴を理解させていく。すると暗記する量が減って、覚えていない植物も特徴から答えが導き出せるようになります」

前述の野村先生も、「知識にない問題が出ても『わからない』と言わないのが、ロジムの生徒の特長です。自分が持っている知識から、仮説を立てて検証し、答えを出そうとする。負けず嫌いの子が多いですね(笑)」と言います。

「親の言うことを聞かない子」になる!?

ロジカルシンキングのトレーニングを始めると、粘り強くなるなど、子供はメンタル面でも大きく成長していく。そして、やがて「子供が親のいうことを聞かなくなる」(苅野塾長)そうです。これは悪いことではなく、「自分で考え、自分で行動できる」ように育っている証拠です。しかし、「子供が言うことを聞かなくなる」ことをを好ましく思えるか、というと、わが身をかえりみてもなかなか難しいことです。「従順な子供」を望むことがわが子のためか、親も考えさせられる塾かもしれません。

また、ロジカルシンキングを身につけたばかりの子供は、クラスメートのトラブルを冷静に仲裁したり、学校の授業でもするどい質問をしたりして、浮いた存在になってしまうこともあるといいます。しかし、そういった体験を繰り返していくうちに、「こういう物の言い方をすると相手に伝えたいことが伝わらないのだな」と学び、他人と円滑な関係を築くことができるよう成長していくのだとか。「子供時代は失敗が許される」と苅野塾長。失敗しながら学んでいく子供を見守ることができるのか? この塾では、親も成長することが求められそうですね。

 

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