文様のふ・し・ぎ 37 栗鼠

文様のふ・し・ぎ  栗鼠

 サササッと小動物が前方を駆けていくのが見えた。友人とのドライブ中の一瞬のことで、子猫とも違うその動物 が何だったのかわからなかった。車を停め、もう一度その動物が走っていった方向に目を凝らしていると、再びサササッと何かの影。「えっ? 栗鼠?」と思わず声をあげてしまった。小さな体にフサフサのしっぽ。慌てているように見えたその様子がなんともかわいらしい。でもその姿を見かけたのは、木々に覆われた森の中などではなく家の近所。学校や商店がある町中だ。親栗鼠が子栗鼠たちのための食料を探しているうちに、山から里へと迷い込んでしまったのだろうか。

 これから山の木々はこっくりとした赤や黄色へと色づき、実りの季節を迎える。栗鼠の大家族が山の中で頰袋を膨らませ、穏やかに過ごしてくれることを願うばかり。

文=長谷川ちえ エッセイスト、器と生活道具の店「in-kyo」店主。『続・三春タイムズ』 (信陽堂)出版記念原画展が各地で開催中。Instagram@miharuno.inkyo


イラスト=山本祐布子

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