文様のふ・し・ぎ 33  ふくら雀

文様のふ・し・ぎ ふくら雀

 今でも雀の姿を見るとふと思い出す。私が幼稚園生の頃だったろうか。母の自転車の後ろに乗って通園していたある朝のこと。さて自宅を出発しようとしたところ、私の目の前に空から何かがポトンと落ちてきた。一瞬何が起こったのかわからなかったが、落ちてきたそれはピィピィと幼い声ながら力の限り鳴き続け、羽はまだふっくらとした産毛のようなものに包まれていた。母がどうやら雀の雛(ひな)らしいと言っていたことは覚えている。巣から落ちてしまったのだろう。偶然にもその真下にいた私たちが受け止めることができたのだ。しばらく母が餌をやったりしていたが、あの雀が成長して自力で空へ飛び立つことができたかどうかは記憶がおぼろげだし、今となってはこの出来事自体、なんだか夢の中のことのようにも思えてくる。おとぎ話なら雀の恩返しとなるところかもしれないが。

文=長谷川ちえ   エッセイスト、器と生活道具の店「in-kyo」店主。自宅の庭の片隅ではじめた一坪畑も今年で3年目に。収穫した野菜を食卓で楽しむことも少しずつ増えている。そんな日々の様子はInstagram@inkyonoengawaにて。


イラスト=山本祐布子

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