文様のふ・し・ぎ 30  独楽

文様のふ・し・ぎ 独楽

宮城県の鳴子に住む友人から、面白い郷土玩具をいただいたことがある。鳴子といえばこけしが有名だが、それはこけし工人(職人)が作る「当て独楽」というもので、木でできた丸い土台の中央にはくぼみがあり、こけしのように鮮やかな絵付けが施された独楽がのせてある。土台のまわりにはかわいらしいきゅうりや唐辛子、大根などの野菜の絵が手でひとつひとつ描かれていて、その様子だけでも楽しげだ。

 

小さな独楽は、糸を巻いて回転させる喧けん嘩か 独楽のようなものではなく、指先でつまんで回すもの。くぼみの中で静かに円を描き始めたと思ったのも束つかの間、コトンという音とともに突然動きがピタリと止まる。これは独楽のつまみが指し示す、土台に描かれた野菜を当てる遊び道具。クルクル、コトンという平和で素朴な音は、どんなときでも私の心を和ませてくれるのだ。

 

 

 

文=長谷川ちえ   エッセイスト、器と生活道具の店「in-kyo」店主。2021年12月に漆作家・宮下智吉さんの個展「家族の漆」を開催予定。 詳細はInstagram@miharuno.inkyoにて。


イラスト=山本祐布子

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