文様のふ・し・ぎ 8 青海波

青海波

  キラキラと輝く水面。耳に届くのは穏やかに繰り返される波の音。海の近くに生まれ育ったわけでもないのに、海を眺めているだけで心が広々とする。日々の雑事でざらざらとした心もいつの間にかきれいに洗い流されていくようだ。
 波の様子を扇形に簡略化し、幾重にも繰り返し描かれた青海波文。魚の鱗(うろこ)のようにも見えるこの幾何学的な文様は、エジプトや中国をはじめ、世界各地でも見られ、日本でも古くは人物埴輪(はにわ)の衣装などにも用いられている。
 文様の名称は雅楽の演目「青海波」でこの文様の衣装を身に着けるようになったことから名付けられたとされている。優美な舞と美しい自然の景色を重ね合せたのだろう。次第に絶えず打ち寄せる波のように、いつまでも平穏な暮らしが続くようにと願いを込めた吉祥文様として用いられるようになった。波の連なりに無限の広がりを見る先人の感性の豊かさにはただただ感じ入るばかり

 

 【青海波文様】
中心が同じで半径が異なる円を互い違いに重ねた幾何学文様は、無限に広がる吉祥文様として、人々に愛されてきた。青海波文様は、基本的なもの以外に、菊や松竹梅などで形づくった青海波など、さまざまな表現方法がある。着物だけでなく、工芸品に使われることも多い。

 

 

 

文=長谷川ちえ
エッセイスト、エッセイスト、器と生活道具の店「in-kyo」店主。移転先の福島県三春町は歴史のある寺院も多く町歩きが楽しい。http://in-kyo.net/


イラスト=山本祐布子

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