文様のふ・し・ぎ 7 早蕨

早蕨

 むくっと頭をもたげるように土の中から芽を出す蕨。山野にニョキニョキと群生する様子はどこかユーモラスで、植物というよりも昆虫や動物のよう。草花が芽吹き、虫たちが動き出す啓けい蟄ちつのころ。早蕨そのものが、あらゆるものの生命力を感じさせる本格的な春の到来を物語っている。 早蕨の文様の歴史は古く、古墳時代の壁画や弥や生よい時代の土器、家紋にも見られる。また身近なものではパッと見てそれを模したとわかる「のし」の文字。やわらかい印象を与えるためか気軽な贈りものの熨の斗しとして添えられる。そのほかにも着物や帯などにはタンポポやツクシなどの野の草花と一緒に描かれていることが多く、その素朴なかわいらしさには思わず笑みがこぼれる。 ポカポカと穏やかな春の光を含んだような文様。花びらをほころばせるような華やかさではないけれどその姿はけなげで美しい。

 

 【早蕨】
蕨は、早春にこぶし状に巻いた新芽を出すが、これを早蕨と呼び、俳句の世界では、春の季語ともなっている。蕨文様の中でも、この新芽の文様を「蕨手」と呼び、古くから壁画や刀装飾などに見られた。開いたシダ状の葉と一緒に、春の野のさまとして描かれることが多い。

 

 

 

文=長谷川(旧姓:中川)ちえ
エッセイスト、器と道具の店「in-kyo」店主。店では、イベントやワークショップも定期的に開催。詳細はhttp://in-kyo.net/


イラスト=山本祐布子

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