新 手仕事ニッポン21

和蝋燭 の色ろうそく(滋賀県・高島市)

灯火ショートトリップ。

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スイッチを押せば、パチッと電気がつく暮らしの中では、蝋燭(ろうそく)、あるいはキャンドルはもはや道具というよりは、趣味の雑貨のような存在である。それでもわざわざ、明るく便利な照明を消してまで、それを灯したいと思うのは、私たちの遺伝子に原初的な記憶として火・炎の存在が刻まれているからに違いない。ゆらりゆらり。灯火を見つめれば心がゆるむ。だれかといても無口になる。
  色ろうそくを初めて目にした時、〝情緒のかたまり〟のようで、なんてロマンチックなんだろうとときめいた。小さな箱に描かれた風景画は、春夏秋冬の近江(おうみ)の風景。秋、棚田に実る黄金色の稲穂の海原は、吹き抜ける風まで感じるようで、蓋(ふた)を開ければ大切に梱包(こんぽう)された6色の蝋燭が収まっている。6本にはそれぞれタイトルが付けられていて、「山の幸」「夕暮れ」「照る山」「障子襖(ふすま)を入れる」「葉っぱの冬支度」「おいしい椎茸(しいたけ)」とあった。
 長さ10センチ弱の小さな和蝋燭は、火を灯して燃え尽きるまで約1時間。米ぬかから抽出した天然蝋は、すすも出にくくいやなにおいもしない。静かに、静かに。  炎を見つめながら、ふとマッチ売りの少女の物語を思い出す。一瞬の炎の中に確かな幸せを見た少女の気持ちに共感した。この和蝋燭に火を灯せば、私の知らない近江の原風景を感じることができる。1時間だけのショートトリップ。色ろうそくは、故郷を、代々の仕事を愛するひとがつくる、魔法の和蝋燭。 「和蝋燭」の色ろうそく「大與(だいよ)」は、滋賀県高島市(創業当時は高島郡)にて1914年より宗教用、茶の湯用など、日常の道具としての和蝋燭をつくり続けてきた。米ぬかを使った蝋燭は、1975年より製品化。春夏秋冬シリーズは、いまや貴重となりつつある近江の原風景と、伝統的な和蝋燭をかけ合わせ、新しい感性がいかされたものづくりとなっている。「色ろうそく 春夏秋冬」各1200円(写真は秋)。「近江手造り和ろうそく 大與」 http://warousokudaiyo.com/ /

 

 

文、セレクト=つるやももこ 撮影=尾嶝 太

つるや・ももこ 旅と人をテーマに取材・編集・執筆を手がける。10 月にこころとからだを旅するウェブマガジン『Ho ̄.ailona (ホーアイロナ)』を創刊。http://www.hoa ilona.com/、インスタグラム@ho.ailona

 

 

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