【第五回】 「普通であること」に埋没しない個を

 
 
2008年3月26日
 
 
写真・大沢尚芳
 
 

【第五回】
「普通であること」に埋没しない個を


グーグルは「普通の会社」ではありません。
そしてそうなろうとも思っていない。

ラリー・ページ (グーグル 共同創業者)
Google is not a conventional company.  We do not intend to become one. (Larry Page)

  これは、グーグルが2004年に上場する際、投資家に宛てて出したレターの冒頭に書かれた言葉です。この言葉が何を意味しているのか。それを端的にあらわしているのがグーグルのもう一人の創業者、サーゲイ・ブリンと、創業メンバーで副社長のマリッサ・メイヤーの次の言葉です。

いま、世界は(以前とは)まったく違う。それは、君たち一人ひとりが
世界中のどんなことについても「情報を得る力」を持ったからだ。
私が学校に通っていた頃と、本当にまったく違う世界だ。

サーゲイ・ブリン (グーグル共同創業者)
Today, the world is very different, because each of you has the power to get information about any subject in the world. And that is very, very different from when I went to school. (Sergey Brin)

私たちは、人々がより良い教育を受けて、
より賢くなれるようなものを生み出したい。
それによって、世界の知力・知性は向上するだろう。

マリッサ・メイヤー (グーグル副社長)
We're doing things that make people better educated and smarter―that improve the world's intelligence. (Marissa Mayer)

 つまり、彼らのやろうとしていることは「革命」なんです。「情報というものをすべての人たちがもつことによって、世界がよくなる」ということを信じている。それはもう、信仰、宗教といえるほどの強い思いです。そのベースには、リバタニアニズム(自由至上主義)がある。個人の徹底的なエンパワーメントが世の中をよくする、という思想がある。そしてその先に、可能になったからといって「なんでもやっていいわけではない」という倫理の問題が出てくる。それは有名なグーグルの社是、「邪悪にならない」に表れています。まさに「戒律」みたいな一文でしょう。グーグルのミッションは「世界中の情報を整理し、あまねく誰にもアクセスできて使えるようにすること」という途方もないものです。「普通の会社ではない」と言い切っているだけのことはある。でもこれだけのミッションを掲げているからこそ、また、そのミッションがどんどん実現していっているからこそ、自らを厳しく律する必要があるわけです。

 ひるがえって日本を見れば、「個人の自由」についてさほど関心がないように思います。「普通でないこと」より「普通であること」のほうがよしとされ、突出したものは表に出てこない。エリートは大組織の中に隠れていて、遠くから「民は知らしむべからず。頭のいい俺たちが全部考えてあげてるんだ」って自己満足に浸っている。「邪悪にならない」なんていう考えも出てこない。そんな文化の中で世界との差がものすごくひろがっています。メディアや教育の責任は大きいと思いますよ。僕は、日本人にポテンシャルがないと言っているのではありません。仕組みの問題だと思うんです。「上」が立派に成長できる仕組みがあれば、いまの若い人たちはもっともっと能力を発揮できる。

 僕が社外取締役をつとめているはてなという会社の経営者、近藤淳也にもこの本を読んでもらったのですが、彼は読みながら、どんどん気持ちが暗くなっていったと言っていました。自分はまだ何もできてない、読んでいてつらかった、と。僕から見れば、近藤はずばぬけて志も能力も高い人間なのですが、その彼が「自分は全然できていない」と感じる。この本はグーグルやアップルといった会社が絶頂にあるときにその経営者たちが語った言葉を集めたものなので、それと比べて発展途上の人間が「できていない」と感じるのは当然です。彼は自分のスタンダードをものすごく高いところにおいているので、「ここに書いてあることが全部出来なくちゃいけない気がして」しまってつらくなったと言う。近藤は自分に対してすごく厳しい。でもそこがいいんです。能力の高い人間ほど、自己に厳しくあるのは当然だと思うし、社会全体がそういう意識を共有すべきだと思います。

 グーグルの話に戻ると、あの会社にはいろんな意味で「宗教っぽい」ところがあります。グーグルだけじゃなく、アップルなんかもすごく宗教っぽい。会社ではないけれど、「オープンソース」という仕組みもひとつの宗教みたいなものですよ。シリコンバレーには「エバンジェリスト(伝道者)」という肩書きのエンジニアがたくさんいます。ある技術の裏にある思想にまで深く通じていて、その思想を技術によって実現することを目指しているひとたちです。技術の背後に思想があるからこそ、iPodみたいなものが生まれるんですね。ただ、小さく薄く作るっていうのは思想ではない。

 いま、ネット上で技術的イノベーションを起こしているのは、宗教的熱狂を伴った志向性の共同体です。自分が面白いと思ったことを面白いと思ってくれる人、自分が大事だと思ったことを大事だと思ってくれる人、たとえそれがリアルの世界では周囲の誰にも共有してもらえない価値や興味であっても、ネットの世界にいけば、それを共有できる人たちがいる。そういう場で、知恵を自由に出し合い、競争し、議論しながらどんどん新しいものを生み出していく。そういうダイナミズムを素晴らしい、と考える人たちがどんどん突っ走って、新しい世界を拓こうとしています。そのすべての源に「個」の尊重がある。
「個」の力を信じること、それをいま立ち止まったり迷ったりしている日本の若くて優秀な人たちに伝え続けたいと思います。

 この言葉が未来を切り開く!
文藝春秋
本体価格1300円+税


 
 

クイック・アンケート

 
 

参院選で過半数を大きく割った民主党ですが

その主因はどこにあると思いますか?

 
 

メールマガジン <プレジデントニュース>

 
 

「プレジデント」編集部員による取材現場でのこぼれ話やビジネスマンに役立つオリジナルコンテンツ、新刊書籍案内などを、週1回のペースでお送りいたします。

メールマガジン申込・登録変更