【第一回】「上を伸ばす」ことのすすめ

 
 
2008年2月27日
 
 

いまや、未来志向の日本人の「バイブル」ともなった『ウェブ進化論』。

その著者梅田望夫さんが、自らの「勉強法」を初めて語った新著

『ウェブ時代 5つの定理』が話題だ。

梅田さんの「思考の核」となっているのは、技術や思想の最先端をいく

ビジョナリーたちの「言葉」だという。新著では、1万冊以上の本を買い集め、

砂漠で砂金を集めるように探し続けてきた「金言」の数々が味わえる。

プレジデント・オンラインのインタビュー(全5回)では、そのなかから

日本の閉塞感を打ち破るための「選りすぐりの金言」を紹介してもらいます。

そして梅田さんがこの本をかいた「本当の理由」も明らかに……。

 
 
写真・大沢尚芳
 
 
【第一回】

「上を伸ばす」ことのすすめ


君たちの時間は限られている。
その時間を、他の誰かの人生を生きることで無駄遣いしてはいけない
スティーブ・ジョブズ  (アップルCEO)
Your Time is limited, so don’t waste it living someone else’s life. (Steve Jobs)

 これは、2005年夏のスタンフォード大学の卒業式でジョブズが行ったスピーチの中の言葉です。ここに引用した箇所だけでなく、とにかくあのスピーチ全体がすばらしかった。どのくらいすばらしかったかと言うと、   あっという間にあのスピーチがネットを通じて世界に広がって、最終的には老舗雑誌フォーチュン誌が掲載するまでに半年とかからなかった。日本語訳も複数出ています。この本を書こうと思った理由のひとつは、こういう切れ味のいい、前向きな言葉が持つ力に僕がこれまでものすごく救われたからです。

 ジョブズのスピーチには、「偉大な仕事をする唯一の方法は、あなたがすることを愛することだ。まだ見つかってないなら探し続けろ。落ち着いちゃいけない」という言葉もあります。さらに「明らかに世界は『よい場所』になっているよ。これまでは大金を持った大きな組織の人たちでなければできなかったことも、個人ができるんだから」なんていうのも彼の言葉です。技術が個人をエンパワーすることを非常に肯定的にとらえているんですね。ちょっと変わったものが出てくるとすぐ警戒し、警鐘を鳴らす日本とはちょっと違うでしょう。こういう言葉をシリコンバレーではシャワーのように浴びるから、それによって人間は変わるんです。僕がアメリカに行こうと決めたとき、まったく勝算なんてなかった。留学経験もなく、なんとかアメリカの社会のなかで生き残って、日米を行ったり来たりしながら向こうに住みたい、というだけでしたから。それが2年半で会社つくるところまでいってしまった。大先輩の起業家から町のおじさんたちまで皆から、That's the way to go とか言われてね。言葉の持つ力ってすごいですよ。

 ジョブスだけじゃない。シリコンバレーの大人たちは、夢に向かって歩みだそうとしている人間を鼓舞するような言葉を臆面もなく口にします。そしてみんなでワーッと盛り上がる。ある意味でものすごく単純で、そこに大人特有のシニカルさがない。そういうことを言ったからといって、「すぐに自己啓発セミナーみたいだ」なんて言う奴もいない。日本で同じようなことを言うと、若い人でもすぐに「自己啓発セミナーっぽい」って言いますよね。でも一方で、「君の人生を他の誰かの人生を生きることで無駄遣いしてはいけない」なんて言われたら、泣き出してしまう子もいるんです。僕はそんな若い人たちに何人も会ってきた。いわゆる一流大学の修士課程にいるような、優秀な人たちです。彼らは親や先生にそういうことを言ってもらったことがないんですね。彼らの親の時代は、大組織に入っても、人生に対する楽観的な展望が持てた。大学を出て、会社に入って、そこそこ好きな仕事をやりながら、運がよければ留学もさせてもらったりして、そのまま勤め上げて……という、のほほんとした気分があったんです。でもいま世界は様変わりして、非常に厳しいものになってきている。生き方、働き方は多様化しているけれど、未来が見えない。親はその新しい世界を理解できないから、子供には、とにかく安定志向でいけと言う。子どもが新しい世界に飛び込もうとするのを猛烈に阻止しようとするんです。しかも最近の若い人は、親の言うことをよく聞くんですよ。だからよけいに苦しむ。

 じつは、この本の原稿ができあがったときに、羽生善治さんに読んでもらったんです。彼はシリコンバレーのことにものすごく興味をもっている。あそこまで行った人はどうやったら創造的なことができるか、どうやったらこの先にブレークスルーが生まれるかに対してものすごく貪欲なんですね。その羽生さんがこの本を読んで、こんな内容の短いメールをくれました。「文中に出てくる人々の清涼感はどこから生まれるのだろうと考えた時に自分を裏切っていない事に尽きると思いました。周囲に迷惑をかけない、信頼を得るには他者を裏切らないというのは日本では色々な所で教えてくれますが自分を裏切らないはあまり聞きません」。そうなんです。自分を信じろ、自分を裏切るな、ということを、日本では言わなくなっている。

 誤解を恐れずに言えば、僕はこの本を「上の子たち」に向けて書きました。能力があって、努力もする人たち、頭がいいだけじゃなくて、向上心を持ち続ける人たちです。こういうことを言うと、上の子だけを伸ばして格差社会を助長するのか、という反論が必ずきます。下の子たちをどうするかが問題で、上の子たちは放っておいてもいいよ、と言わんばかりです。その一方で親たちは、上になるためには勉強しなさい、と言う。若い子たちは、親の言うことをきいて勉強してきたけれど、その先にわくわくするような職業がみつからない、と悩んでいるんです。だから将来に対して希望を持てないんです。僕は、意欲にも能力にも溢れた「上の子たち」がもっと自分を信じて、厳しいけど可能性もいっぱいある未来に果敢に挑戦していけるように、僕なりのビジョンを見せることが自分の使命である、くらいに思って本を書いています。

 この言葉が未来を切り開く!
文藝春秋
本体価格1300円+税


 
 
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