「世界を変える人、日本を変える人」 第7回
「素泊まりの旅館、のような保険を目指しています」
岩瀬大輔さん(ライフネット生命副社長)
この5月に、既存生命保険会社の資本がまったく入っていない
インターネット専門の生命保険会社が日本に初めて誕生した。
その名は「ライフネット生命保険」。
一人当たりの保険総額がアメリカ人の3倍、イギリス人の6倍という
保険好きの日本人だが、一連の保険金不払い問題で、「本当に必要な保険」を
見直す動きが加速、大手生保各社の新規契約高は軒並み減少している。
揺れる保険業界に一石を投じる存在として注目されるライフネットの副社長、
岩瀬大輔氏に生保商品の本来のあり方と、新しい売り方についてきいた。
すっぴん、素泊まり、無添加、の保険
――開業おめでとうございます。手応えは感じていらっしゃいますか?
おかげさまで、予想以上に反響があって、コールセンターには励ましの電話までかかってきています。自分たちの励みになるとともに、みなさんが生命保険に対してある種の問題意識を持っていたという証拠でもあると思っています。ただ、ウェブサイトを見て、「いい商品だね」と評価くださる方は多いのですが、すぐに契約に結びつくかというわけではないんですね。保険はいますぐに買わないとどうなるという商品ではないので、最後の一押しがむずかしいところです。
――死亡保障の定期保険「かぞくへの保険」と終身の医療保険「じぶんへの保険」という2種類だけを扱うという極めてシンプルな商品構成ですね。
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| 「生命保険の原点に立ち返ろう」をコンセプトに、わかりやすい商品構成、サイトづくりをめざす。 |
「生命保険の原点に立ち返ろう」というコンセプトのもとに、まずは、保険が初めて世に出てきたときの姿から始めようということで、この2つの商品にしぼりました。例えるなら、素泊まりの旅館のようなものですね。最低限必要なものを提供して余計なものはつけない、“すっぴん”の保険です。
――最初に入る保険として選択しやすいですね。
でも、「最初の保険として選んで欲しい」というすすめ方をしているわけではないんですよ。生命保険は世帯加入率が90%超、世帯平均保険加入数は4.2件と言われています。そんななかで、自分の入っている保険を理解し納得している人はどれだけいるのでしょうか。インターネットで販売するので若い人がメインの顧客にはなると思いますが、いまの保険に「入らされている」という感覚があるのなら、弊社の商品を見直しのきっかけにしていただければと思っています。
――自分の加入している保険の内容を理解していない人が多いということですか?
元来、金融商品というのはわかりにくいもので、売り手と買い手の間に情報の格差があります。特にこれまで大手生保が進めてきたコアの商品戦略が「定期付き終身保険」というもので、ひとつの基幹商品に死亡保障や特約などいろいろなものを上乗せしていくというものだった。だから元々情報格差があってわかりづらい上に、消費者から商品構造が見えづらくなってしまっているんですね。そのために不必要な保険にまで入ってしまっているかもしれない。ですから、これを機に自分の保険を見直してみませんかと。わたしたちは価格を明瞭にしているのでわかりやすいですよ、ということです。
――価格が明瞭であれば消費者に選ばれるのでしょうか?
これまでのような保険料率規制がある中では、保険の差別化はほとんどできていなかったので、外交員が会社まで来てくれたり、野球のチケットをとってくれたり、飴をくれたりといったサービスは、付加価値があったわけです。そういった意味では消費者は極めて合理的に商品の選択をしていたのだと思います。しかしこれからの時代は外交員のサービスに対していくらの料金を払っているのかと意識することが大切だと思うんです。いま投資信託や変額年金などでも手数料の透明化が進んできています。販売手数料や運用手数料をどこにいくら払っているのかということに対する関心は高まっている。ですから、対面の手厚いサービスはいらないから、その浮いた保険料分のお金を貯蓄に回したいというお客様にとって、手数料を含めた商品価格が明確であるということは、ひとつのソリューションになるのではないかと思っています。
「お得」な金融商品なんてありません
――これからの時代は、消費者がもっと金融の知識を持つ必要があるということですね。
最低限の知識は身に付けるべきでしょう。僕は金融商品は本当は難しくないと思っています。ポイントはいくつかしかなくて、まずはリスクとリターンを認識するということです。金融商品に「お得」なものはない。全部リスクとリターンのトレードオフです。お得かもしれないと思うものがあったら、対価としてどんなリスクがあるのか、何に対してお金を払っているのかを理解することが大切です。例えば7大疾病にかかった場合に保険金が2倍支払われる生命保険であれば、その分多くの保険料を払っているんです。7大疾病にかかったときに、本当に2倍の医療費がかかるのか、そういうふうに考えてみてください。
それから、金融商品は手数料と税金が大きいことも押さえておくべきです。もうひとつのポイントは、「シンプルなものですべての機能は果たせる」ということ。金融のプロといわれる人は、複雑な商品には手をだしません。ましてや素人がそのしくみを理解して利益を出すのは大変なことです。金融というのは勉強すれば確実に差がつきます。金融商品に詳しい人から数時間話を聞くだけで、年間で数十万円節約できる。株でそれだけ儲けようとしたら大変ですよ。

――今後、大手生保が同じ販売方法を導入したらどうなるでしょうか。
確かにそういう可能性はあると思いますが、その場合、大手生命保険会社が対面型のチャネルとの関係をどうするかですよね。極端な言い方をすれば、外交員を使って1万円で売っている商品を、ネットで5000円で売ったらどういうことになるか。そういうことをするには、かなりの覚悟がいると思います。証券で言えば、松井証券はそこで思い切ってネット証券会社に生まれ変わり、大手では野村ホールディングスの100%子会社であるジョインベスト証券がありますが、誕生するまでに10年くらいの時間がかかっていますね。
――生命保険会社には信頼性があることも大切だと思いますが、その点はいかがですか?
信頼というのはすぐに築けるものではありません。コツコツ誠実に時間をかけてやっていくしかないですね。でも100年前から続いている生命保険会社に対して信頼感があるかというとどうでしょうか。一連の不払い問題などで不信感も高まっているんじゃないでしょうか。社会が大きく変動してきている中で、何十年と変わらない生命保険業界がある。その中で、新しい保険会社にまだ長期にわたる信頼がないとしても、保険を選ぶ際の俎上にあがるくらいの価値を我々は提供できるのではないかと思っています。
――ところで、さまざまなバックグラウンドを持つ社員がいらっしゃるようですね。
生命保険は非常に専門性が高いので、社員の多くは生命保険会社出身です。ですが、業界の人間だけでは大きなブレークスルーは生まれないと出口(治明社長)は考えていて、生保のプロと異業種のプロが集まることで新しい価値を生み出そうとしています。私自身は普通のコンシューマーグッズとして保険を売れるようにしたいと思っているので、消費材系ビジネスに精通した人に入ってもらいたくて、いまマーケティングの責任者は、スターバックスの広報を経験した者が務めています。またウェブチームにはヤフーで金融サービスをやっていた人間がいて、新しいネット金融のあり方を模索していますし、事業開発の部門にはベンチャー企業を10社くらい起ちあげ、また外資系生保の企画も担当していた人間がいます。保険のプロとそれ以外のビジネスのプロ、そして若手とベテランが集まっている状態でバランスがいいですね。また株主には経済のメインストリームにいる会社が多く入っているので、そういった会社とベンチャーが手を組むことによってはじめて革新的なものが生まれるという考えの中で、理想的なチームができているように思います。
「ここまで削れる」と示すことに価値がある
――これからも業界にインパクトを与える革新的な存在であり続ける予定ですか?
我々は決して革新的なことをしているわけではないんですよ。むしろ当たり前のことを素朴にやっていて、それをみなさんが逆に新しいと感じてくれているわけです。今回の商品にしても「ここまで削ぎ落として来たか」と、業界の人にはインパクトがあったようですね。こちらが思い切って「これだけでいいんだ」といってあげることこそがいまの瞬間はすごく価値があるんじゃないかなと思っていますが、でもゆくゆくは一人ひとりにあった保険を提案して、そのなかから選んでもらえるようになればいいと思っています。インターネットならそれができるんですよね。パソコンメーカーのDELLのように、自分にあったものをカスタマイズしていく、今後はそういう方向性もあるのかなと思っています。我々には生命保険会社の論理や、会社の収益構造にしばられるような制約がないですから、これからも奇をてらわず、自分達が一消費者として欲しい、あったらいいなと思う商品をつくっていきたいと思っています。

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