「世界を変える人、日本を変える人」 第3回

「自分のためにアートを買う男性はセクシーだと思います」

辛美沙さん(アートフェア東京 エグゼクティブ・ディレクター)

 
 
2008年3月26日
 
 

アートフェア東京 エグゼクティブ・ディレクター
辛 美沙さん=談
Misa Shin
ニューヨーク大学大学院芸術経営学修士課程卒業。専門はアートマネージメント。森美術館広報マネージャー、第二回横浜トリエンナーレ副ディレクターを勤め、2005年からアートフェア東京のエグゼクティブ・ディレクターとなる。

 

野地秩嘉=インタビュー

 
 

サブプライムが契機に暗い影を落とす昨今だが、アート市場は盛況だ。
アジア随一の美術見本市、「アートフェア東京」は、今回3回目の開催となる。
前回は3日で10億円以上の美術品を売上げ、初日に完売した画廊もあったという。
アートには「見る楽しみ」と「買う楽しみ」がある。
「人がお金儲けの次に行きつくのがアート」と語る辛美紗さんに、
アートフェアの楽しみ方を聞いた。

 
 

――アートフェアとは何でしょうか?展覧会とどこが違うのですか?

 アートフェアというのは美術品の見本市です。画廊、美術店が作品を持ち寄り、入場者に販売するイベントのこと。美術の展覧会は黙って作品を見るだけですが、アートフェアでは自由に作品を買うことができます。
 大規模なアートフェアが始まったのは戦後のことで、40年以上の歴史を持つ、マドリッドのARCOというフェアが嚆矢だといわれています。現在では世界150都市以上で開かれ、アジアに限っても、北京、上海、ソウル、香港、シンガポール、台北と、主要都市で開催されるようになりました。

今回の出展者は108店。インドのギャラリーも初参加する。

 アートフェア東京は今年で3回目の開催になります。もっとも前身の日本インターナショナル・コンテンポラリー・アートは1992年、バブルが崩壊した直後に始まっています。当時は主に現代美術の作品だけを扱っていましたが、アートフェア東京に衣替えしてからは日本画、洋画、古美術、工芸品も加わりました。
 アートフェア東京に出店する画廊、出展者は海外、国内合わせて108で、販売する美術品の数は約2500点。このうち半数は初日で売切れてしまうのではと思っています。
 作品の値段は安いものだと2000円から。高いものになれば何千万円といった作品もあります。クレジットカードや分割払いを受け付ける画廊もありますから、まずは足を運んでみてください。

――日本人は世界的に見て美術が好きなのでしょうか。

 はい。そう思います。特に展覧会を見に行くという意味において、日本人はとっても美術が好きです。
 イギリスの美術雑誌「アート・ニューズペーパー」に興味深い記事が載っていました。世界の主要な美術館における一日あたりの平均入場者数を見ると、2006年、2007年とも第一位は日本なのです。どちらも上野の東京国立博物館で開催されたもので、2006年は「若沖と江戸絵画」展、2007年は「レオナルド・ダヴィンチ」展でした。さらには上位を占めた展覧会を見ると、日本で開催されたものが目立ちます。
 私もよく東京の美術館へ行くのですが、平日の朝から美術品を食い入るように眺めている人がこれほど多い国は日本くらいのものでしょう。
 ただし……。日本人は美術とは「黙って鑑賞する」もので、自分で所有するものではないとも考えています。小学校からの美術教育のせいもあるけれど、「美術作品は展覧会へ行って教養として楽しむもの」と思い込んでいます。
 でも、戦前の日本では財閥を初めとする個人の金持ちが美術作家のパトロンとなり、作品をコレクションしていました。市井の人でも自宅に美術店で買ってきた掛け軸や日本画を飾っていた。それが戦後になって、社会の中流化もあり、「美術は買うものでなく、鑑賞するもの」に変わったのです。

古美術から現代美術まで、「雑食」の日本人向けの品揃え。

 アメリカやヨーロッパでは金持ちになった人は、アートを買おうとしますし、また、あるソーシャルサーキットに属したいと考えたら、その社会で評価されるアートを購入します。豪邸を建てたら、その中にどんな美術作品を飾るかを考える。アートの力で社会階層を登っていくんですね。
 日本でも、これからは展覧会へ行くだけでなく、アートを所有して楽しむ、あるいは自分のセンスや財力を人にアピールする時代になってきたと思います。

――アートのコレクターになるとどんな「いいこと」がありますか?

 昨年のアートフェア東京を見ていたら、現代美術の作品を買うのは30代の男性、女性が多かった。特に目立つのが女性ですね。独身女性で親元に暮らしている人は、お給料のすべてを消費に回すことができます。これまでだったら、そうした女性は30万なり40万のブランド品を買いました。けれども、ブランド物は飽きたら捨てるしかありません。一方、美術作品ならばずっと手元に置いておくことができる。そして、作品を買うことでアーティストを応援しているというダンナ的な喜びを感ずることもできる。さらに言えば美術作品を買うことは知的な楽しみです。何といっても、お金だけでなく、鑑賞する眼が必要なのですから……。
 そういったこともあり、このところ、現代美術の作品が売れるようになってきました。私は女性だけではなく、普通のおじさんたちにも美術を買う楽しみを味わっていただきたいと思っています。「アーティストをサポートする」とか「世の中に美を啓蒙する」なんてことを考えなくてかまいません。若い女の子にモテるための手段として現代美術の作品を利用してください。

――美術品を買うのがいま、セクシーだと。

 昔、王侯貴族が美術を愛好したのは権力の誇示が目的でした。そうした人間の欲望によって、美術コレクションというものがつくられてきたのです。ですから男性が「知的な楽しみをわかっているんだ」ということをアピールするために買うのは全然おかしなことではない。動機はなんでもいいんです。自分なりの美術の楽しみ方を創りだしていただければ。
 美術に詳しい男性って、「セクシー」だと思いますよ。この場合のセクシーとは、決して胸板が厚いとか腹筋が割れているというのではなく、「知的な色気」を持っているという意味です。ビジネスマンの方々も、仕事帰りにぜひ素敵な女性と一緒にアートフェア東京をのぞいてみてください。


 

※アートフェア東京2008
会期 4月4日(金)- 4月6日(日)
会場 東京国際フォーラム
http://www.artfairtokyo.com/info/index.html

 
 

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