「世界を変える人、日本を変える人」 第1回
資本主義を「利用」して、世界の貧困を解決する
ジャクリーン・ノヴォグラッツさん
慈善事業や寄付ではなく、ビジネスの手法で世界の貧困を解消できないか――アキュメン・ファンドは、グーグル、ナイキ、シスコ・システムズ、ビル&メリンダ・ゲイツ財団など、名だたる企業・団体から資金を集め、途上国の社会的事業を支援する。成長が見込まれる事業に投資する手法はまさにベンチャー・キャピタルと同じだが、異なるのは、金銭的な利益のかわりに社会的リターンを目指すこと。2001年の設立以来、2万人の雇用を創出、1000万人の生活を向上させてきた。その規模は拡大を続け、現在は31のプロジェクトに3200万ドルの投融資を行っている。ウォール・ストリートと世界の最貧国に架け橋を築いたノヴォグラッツさんに、新しい経済支援のモデルについてきいた。
――以前はチェース・マンハッタン銀行で働いておられました。ソーシャルセクターに関心を持たれたのはなぜですか。
幼い頃から世の中を変えたいと思っていました。正直なところ、その理由はよくわかりません。60年代の公民権運動などを通じて、富める人とそうでない人がいることに漠然と疑問を感じていたのです。銀行に入ったのはラテンアメリカの債務危機の時代で、コロンビア、ペルー、チリ、ブラジルなどの不良債権問題を担当していました。ブラジルやチリでは低所得者も事業を立ち上げて経済活動を行っているのに、銀行は彼らに融資をしない。「富裕層ではなく低所得層に貸したほうが回収率が高いのでは?」と上司に提案しましたが「君は純情すぎるね」と言われて……。その後バングラデシュのグラミン銀行のことを知り、マイクロファイナンスに魅了されました。そこで銀行を辞め、ルワンダで同国初のマイクロファインナンスの組織を立ち上げることになったのです。
――マイクロファイナンスの仕事では、どんなことを学ばれましたか。
資本主義のツールを活用すれば、たったひとりの力でも世の中を変えることができると知りました。事業で所得を得た女性たちは、子どもを学校に通わせるなど、家族のためにお金を使う。男性の場合は必ずしもそうではないのですが(笑)。女性20人で経営するベーカリーの運営を手伝った際は、彼女たちの人生が劇的に変わっていく様も目の当たりにした。この活動は短期間で全国展開を果たしました。でも、マイクロファイナンスだけでは十分ではないとも感じた。そこで自分をスキル・アップするため、帰国してスタンフォード大学でMBAを取得したのです。
――そしてロックフェラー財団に入られたわけですが、そこではどんなお仕事を?
最初はフェローとして、94年以降はフィランソロピーの変革を目指すワークショップや「次世代リーダー養成プログラム」の責任者として7年間働きました。フィランソロピーは2500億ドル規模の一大産業となっていましたが、細分化しすぎて効率が悪かった。改革の必要性を感じましたね。「哀れで無力な貧しい子どもたちには、あなたのお金が必要です」と訴えるのが従来のやり方。でも、それでは彼らとの間に距離を作るだけ。個人の力を過小評価してはいけない、彼らの持つ可能性に目を向けさせるべきだと考えたのです。貧困に苦しむ人々と私たちを分けているのは、チャンスを与えられているかどうか、それだけなのですから。
――そうしたお考えが、単なる寄付ではなく社会的事業に投資を行うという「アキュメン」の構想につながったわけですね。
その通りです。出資のほか低金利で融資も行う。成長を促すよう、我慢強く投資を続けることが肝心です。戦略立案を助けたり顧客や重要人物を紹介するなどの人的支援も提供していますが、この分野では日本企業にもぜひ協力してほしいですね。最初は「健康管理」の分野から始め、現在は「安全な水の供給」「住宅」「エネルギー」を加えた4分野に取り組んでいます。最も成果を上げているのは「健康管理」で、住友化学が開発したマラリア予防用・防虫蚊帳「オリセット」を生産するタンザニアの「A toZ」社は特筆すべき成功例です。02年に32万5000ドルの融資(全額完済)をしましたが、私たちが果たした役割は小さい。住友化学による技術の無償供与のおかげで、同社は年間1000万ネットに迫る生産力を持ち、6000人の雇用を生んだ。年3億人が感染するマラリアの予防にも大きく貢献し、アフリカの可能性を語るときのモデルとなっています。
――投資先を選ぶときの基準はあるのですか。
3つの側面を見ます。まず起業家に志やリーダーシップがあるか。「100万人の人生を変えたい」という大望を持っている人が必要です。次に事業モデルがサスティナブルかどうか。3つ目は成長の潜在力があるかどうかです。
――今後の目標をお聞かせください。
短期の目標は3~5年以内に1億ドルの資金を調達して70~80の企業に投資、8000万人の人生を変えることです。政策の決定や、世界銀行のような組織にも影響力を行使できればすばらしい。社会的インパクトの評価や測定方法も研究中です。地球上のすべての人々が安全な飲料水や住宅などの基礎的サービスを享受し、自分の力で人生を選びとることができる――そんな社会をつくることが究極の目標です。
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アキュメン・ファンド代表





