2006年1月16日
第311回 あなたは「下流」ですか
今、空前の『下流』ブームである。
1億総中流の時代は終わり、「上流」「中流」「下流」に分かれた社会の階層の分化が、日本でも顕在化しつつあるのだろうか。
毎日新聞が昨年12月に実施した興味深い世論調査がある。その中で「格差社会になりつつある」と答えた人が64%に上り、今後の格差について「拡大」すると答えた人が71%、「縮小する」と答えた人は6%という結果が出た。
わずか10年前に設立したライブドアの堀江社長が上場後に億万長者となる。そして「僕の月のこずかいは1000万円」と豪語した上、ヒルズ族が幅を利かせる時代である。その一方で、学用品や給食費の就業援助を受ける児童・生徒の数が東京・大阪では4人に1人で、ここ4年間で4割増えたという報道(1月3日付け朝日新聞)もあった。
現在発売中のプレジデント誌1月30日号で、『親は「偽中流」、わが子は「下流社会」』という対談を行った。対談相手は、大手外食産業ワタミ株式会社の渡邉美樹社長と、55万部を記録した『下流社会』の著者である三浦展氏である。
三浦氏は、「下流」を単に所得が低いだけではなく、コミュニケーション能力、生活能力、働く意欲、学ぶ意欲、消費意欲、総じて人生への意欲が低いと定義している。
その中で、渡邉氏は「格差社会」について以下のように述べている。
「この国は中途半端な社会主義だ。我々は自由主義を選んだ。それは競争社会で、下流にいれば飯が食えなくて野たれ死にするしかない」
三浦氏は「ひやー厳しい意見ですね。下流社会がいいとは思わない。今後格差は拡大するかもしれないが、人の喜びを自分の喜びに変える人が増えるなら、その社会は健全ではないか」と答える。
また今や2002年段階で内閣府の調査で85万人いると推測されるニートに関する問題では、「ニートは憲法違反だ」で2人の意見は一致した。
「ニートに自分の子供をさせないためには」という問いかけに対して、三浦氏は「早寝・早起き・朝ご飯」と生活のリズム作りを推奨するのに対して、渡邉氏は「夢を持つことが大切。ウチでは、フリーターから社員になった子が、好きなことを実現している」と自身が展開する外食産業での事例を語った。
先日、別件で取材した映画監督の井筒和幸氏も「ニート問題」に対して、一家言持つ。
「ニート問題なんて、マスコミや政府の偉いさんが勝手に言っているだけ。ニートなんて、援助してくれる親がいなくなったら、自活せざるを得なくなって勝手に解決してしまうよ。僕だって、ニートみたいに何年間もぶらぶらしていた時期があったよ。今の若い子は、正社員になりたくてもなれない現状がある。赤字を出したくないから、正社員を採用しないという企業のご都合主義を、今の若い子は見抜いているんだ」と井筒氏は手厳しい。
話は大きく飛ぶ。昨年は、フランスで若者たちの暴動発生が大きく日本でも報じられた。その暴動はパリの郊外だけでなく、リヨンやトゥールーズといった地方都市にも広がりをみせた。この暴動の中心は、アフリカ系などの移民系の若者たちで、彼らのほとんどは社会階層的に恵まれない「下流」だ。ちなみにサッカーで有名なジダンも北アフリカ系移民の貧しい「下流」出身者である。「自由・平等・博愛」を掲げるフランスも、戦後の復興期に北アフリカ諸国の移民を大量に受け入れて、経済発展を遂げた経緯がある。1980年代の経済停滞期を境に同国の失業者が10%以上に急増し、ここからさらに移民の就職が、極めて難しくなった背景がある。
時期大統領候補と目されるサルコジ内相が一部の移民の若者に対して発した「社会のくず」発言は、物議を醸し出した。ちなみに、サルコジ氏も元をたどれば立派な“ハンガリー系”移民の子である。移民のルサンチマン(弱者が強者に対して持つ怨念)は、若年層の失業問題とも深く関係している。
今から10年前にフランス人の20代の若者に皮肉交じりに言われたことがある。
「日本はいい意味でも悪い意味でも、社会主義が理想とする平等主義が実現した唯一の国だ。日本はまだ景気がましだから、大学生は就職しやすいだろう。フランスでは、パリ大学を卒業しても3人に1人は就職できないよ。」。弊誌の2005年10月31日号『大学と出世』(78-79ページ)でも、早慶を卒業しても、就職率は7割程度という結果が出ている。大学院進学者や自主留年者を除いた数字だとしても、若者の就職状況は厳しい。
フランス人もうらやんだ日本の“1億総中流”は、今大きな音を立てて崩れ去ろうとしているのだろうか。
是非、現在発売中の1月30日号の対談を読んで頂き、来るべき「格差社会」について考えて頂きたいと思います。
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