2009年3月24日
景気の底がいまだに見えない。
オバマ政権は72兆円規模の景気対策法を成立させ、中国も約57兆円の景気刺激策を発表し、景気浮揚に懸命だ。日本だけが一ケタ少ない額である。
アメリカの72兆円という金額は日本の国家予算に迫るほどだが、ノーベル経済学賞を受賞したロバート・ソロー教授などは「まだ足りない」との見立てだ。それほど景気の落ち込みが深刻ということである。
オバマ政権の景気対策では公共事業や教育、エネルギー、医療だけでなく、別予算で自動車業界と金融業界にも多額の税金を割いている。だが、政権から救いの手が及ばない業界もある。新聞である。
アメリカには現在、日刊紙が約1400紙あるが、2008年の全紙の売り上げは前年比で16.5%も落ち込んでいる。今年はさらに10%前後の減少が見込まれており、閉塞感は強まるばかりだ。今年に入ってからでもコロラド州の「ロッキーマウンテン・ニュース」が廃刊になり、アリゾナ州の「ツーソン・シチズン」も廃刊の危機に立たされている。
また昨年10月、ボストンの「クリスチャン・サイエンス・モニター」が紙から電子版への移行を発表し、シアトルの「シアトル・ポスト・インテリジェンサー」も今月、インターネット版への完全移行を決めた。業界の先細りは一層強まっている。
ワシントンの国防大学が06年に発表した「新しいメディア業界の最終報告」というリポートの結語には、「2040年までに最後の新聞紙のリサイクルが終わる」と、紙の時代の終焉が予測されている。しかし、いまのペースで新聞の淘汰が続けば、「紙が消える」までには2020年までもたない可能性もあり、業界への逆風は厳しさを増している。
窮地に立っているのは新聞社本体だけではない。当然のように、記者たちへもコスト削減の厳しい現実が押し寄せる。「USAトゥデイ」を発行する新聞最大手のガネットは、今年になって社員に1週間の無給休暇を取らせることを決めたし、他社ではすでに社員削減は当たり前になっている。さらに書く仕事そのものが国外に移転される「記者のアウトソーシング」が始まってさえもいる。
カリフォルニア州の小さな新聞社「パサディナ」は昨年、記者を含む社員7人を解雇し、代わりに6人のインド人を採用した。全員がインド在住で、インドから電子メールや電話、インターネットなどを使ってアメリカ国内の取材を行い、原稿を書く。英語が得意なインド人であるからの技だが、会社としては何よりもコストを抑えられるメリットがある。
同社ではそれまで記者一人の平均月給が約30万円だったが、インド人に支払う原稿料は1000語の原稿で7ドル50セント(約700円)という破格値。
「このニュースを聞いた時は愕然としました。われわれの仕事がなくなります」(アメリカ日刊紙の東京特派員)
ニューヨーク・タイムズなどは、すでにジャーナリズム学科の学生に重要性の低いローカルニュースを書かせているし、アリゾナ州の新聞社では広告収入を増やすため、広告主を斡旋してくれた人に対して新聞を無料で宅配するサービスを行って減収を食い止める。ただ、こうした手法が経営の苦しい新聞社の本質的な収益浮揚策にはならない。
アメリカ新聞研究所のキャロル・アン・リオーダン副所長は新しいビジネスモデルの可能性はまだあると話す。
「読者の興味に絞り込んだカスタム化したニュースをインターネットで提供したり、他社とパートナーシップを結んでコスト削減をしたり、ケーブルテレビ局と同じようなビジネスモデルで、インターネット利用者に月々の利用料金を請求するといったアイデアは試せると思います」
インターネットで配信される記事の有料化はすでに多くのメディアで試されたが、収益が上がらないことが多い。ほとんどの利用者がすでに「ニュースは無料」という常識を持つからだ。
そこでアメリカの新聞業界が期待しているのがオバマ政権による支援である。中立を信条とするメディアに政府が資金援助する可能性は少ないように思えるが、実はフランスやイギリスではすでに新聞社に対する支援を行っている。
オバマ大統領は今のところ、メディアへの積極支援は打ち出していない。けれども、業界の中には政府による大々的な減税策や広告面への援助を期待する動きはある。というのも、アメリカでは新聞の役割は図書館や学校と同じように、公共性の高いものであるとの見方が強いからだ。大手新聞社がバタバタと廃刊に追い込まれることは由々しき事態であり、第四の権力と言われるメディアを政府が支援する可能性はある。
インターネットで簡単に無料ニュースが読める時代だが、誰かが一次情報としてのニュースを拾わざるを得ない。紙からネットへ媒体が移っても、ニュースの送り手である新聞社は必要である。こうした点を考慮すると、アメリカだけでなく日本でも、ネットユーザーから定額の契約料を振り込ませて情報の発信をし続ける体制づくりを作っていく必要があるだろう。
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