堀田佳男の「2008アメリカ大統領選ウォッチ」

2009年2月23日

 
 

「グリーンバブル」
 この言葉がアメリカのメディアに頻繁に登場するようになったのは昨年である。
 オバマ大統領が予備選中から力を入れていたグリーンエネルギーへの取り組みがビジネスとして発展し、バブルにまで行きつくとした仮説である。ただ、単なる仮説として終わるのか、本当にバブルが訪れるかは意見がわかれる。
 ITバブルや住宅バブルといったかつてのバブルが遠因で、アメリカ経済が大きな成長を遂げてきたことは事実である。ふたたびバブルが起きて不況から脱出できることもあろうが、バブルはいつか破裂する運命にある。一過性の波のあと、急速に減退してしまうグリーンバブルを予見できなくもない。

 オバマ大統領は当選前、今後10年で1500億ドル(約13兆円)を再生可能エネルギーの開発に割くと公約に掲げていた。そして2025年までに、エネルギー総使用量の25%をまかなうとも言った。輸入原油の依存度を減らすと同時に、環境分野だけで約500万の雇用をうみだす予定でもある。
 そこにもう一つの言葉が登場した。
「グリーンカラー」
 ホワイトカラーでもブルーカラーでもない、環境ビジネスに従事する人たちを指す新語である。すでにアメリカ人の間に浸透しつつある。メディアを巻き込んだこうした雰囲気づくりは実に巧妙である。

 オバマ大統領は2月17日、7870億ドル(約72兆円)規模の景気対策法案に署名した。アメリカ政府のホームページをみると、その中からエネルギー関連予算には430億ドル(約3兆9000億円)が充てられている。だが実際は、エネルギー分野での減税額もいれると約7兆円が使途される見込みだ。
 メリーランド州に本社を置く環境関連技術会社「カレント・グループ」のCEOトム・ケーシー氏は、オバマ政権の景気対策を手放しで讃える。
「大型の景気対策法案だけに、間違いなく雇用が創出されます。多くの環境関連企業は予算の一部を勝ち取ろうと躍起になっています。弊社もオバマ大統領の再生可能エネルギー開発の流れに乗りたいです」
 オバマ大統領は署名をしたコロラド州デンバーで国民に向かってこう発言した。
「みなさん。ご自分で政府のウェブサイトをチェックしてください。予算が今後、どう使われていくかをご覧になってください」
 税金の使途を全面公開する約束をしたのだ。この透明性は歓迎されるが、本当にアメリカ経済が浮上してグリーンバブルに成長するかは微妙だ。

 しかし、すでに予兆がある。
 ベンチャーキャピタル(VC)が環境ビジネスにカネを投入し始めているのだ。07年末から不況に突入したアメリカは、08年も株価の低迷に見舞われた。経済成長率はマイナスにならずに1.3%にとどまったが、01年以来7年ぶりの低成長となった。株価が低迷しているだけに、投資目的の資金が行き先を探していたのだ。
 環境関連ビジネスVCへのカネの流れはアメリカだけの潮流ではない。世界的な潮流になりつつある。サンフランシスコにある「グリーンテク・グループ」という調査会社によると、07年の環境関連ビジネスVCへの出資額は世界中で60億ドルであったのに対し、08年は84億ドルにまで成長した。
 たとえば、バーモント州にある「ウォルフィー」という太陽光パネルを扱うベンチャー企業は、昨年の売上が前年比2倍の6000万ドルに成長し、ベンチャー投資家たちの格好の対象になっている。
 現在、環境ベンチャーに集まる投資額の半分は太陽光パネルとバイオ燃料に注がれている。バイオ燃料については非効率との議論もある。たとえば、エタノールで化石燃料を置き換えた場合、とうもろこしやさとうきびなどの耕地面積が広大になり過ぎるばかりか、化学肥料の大量使用の問題も発生するのだ。

 しかし、オバマ大統領はバイオ燃料を含めた再生可能エネルギーへの依存度を高める方針を貫いている。大統領がどれほど環境ビジネスの興隆に期待しているかはまた、閣僚の顔を眺めても理解できる。
 農務長官のトム・ビルサック前アイオワ州知事は、「環境ビジネスにもっとも熱心な知事」と言われている。アイオワ州知事時代、エタノールをはじめとする環境ビジネスの誘致に積極的で、小州でありながらエタノールの生産量は全米の3割に達する。
 またケン・サラザール内務長官は以前、環境問題専門の弁護士だった。ヒルダ・ソリス労働長官はカリフォルニア州出身で環境問題を政治活動の中心に据えていた。
 エネルギー長官のスティーブン・チュー博士は97年ノーベル物理学賞を受賞し、バークリー国立研究所で代替燃料の研究・開発を陣頭指揮していた人物である。そしてエネルギー・気候変動担当調整官という新設ポストには、クリントン政権時代の環境保護長官だったキャロル・ブラウナー氏が抜擢された。

 このように、グリーンバブルへの助走は予算においても閣僚の面でも整えられつつある。ただ、ITバブルは2000年3月に株価暴落で幕を閉じ、住宅バブルも06年夏で弾けてしまった。
 グリーンバブルはいまだに現れていないが、早ければ今年末にも環境ベンチャーが中心になり、目にみえる形でバブルへと膨らむ可能性はある。


 
 
堀田佳男

堀田佳男

Yoshio Hotta
1957年東京生まれ。早稲田大学 文学部を卒業後、ワシントンDCにあるアメリカン大学  大学院国際関係課程修了。大学院在学中に読売新聞ワシントン支局で1年間助手を務める。卒業後、米情報調査会社に勤務。アメリカの日刊紙の日本語ダイジェストの執筆・編集に携わる。永住権取得後、1990年に会社を辞して独立。以来、ジャーナリストとして政治、経済、社会問題など幅広い分野で精力的に執筆活動を行っている。25年の滞米生活後、2007年春帰国。
著書に『大統領はカネで買えるか?』(角川新書)『大統領のつくりかた』(プレスプラン)など。

http://www.yoshiohotta.com/
 
 

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