2010年1月8日
先日、「ジェネラル・モーターズ(GM)が今年中にIPO(株式公開)するかもしれない」という噂が流れた。
本当ならば投資家にとっては願ってもないニュースである。GMは昨年6月、連邦破産法第11条(チャプターイレブン)を申請して事実上倒産し、同社株はニューヨーク株式市場のリストから外された。GM株が再び取引されるということは再生のあかしであり、蘇る最初のステップと受け取れる。
これまでGM本社のあるミシガン州デトロイトに何度か足を運び、自動車業界の巨星ともいえる企業を取材してきた。デトロイトを訪れるたびに、アメリカ最貧の都市という印象を強くし、私の中でのGMはすでに「再起不能」という位置づけだった。
破綻前は大組織にありがちな官僚体質が社内に蔓延し、抜本的な経営維新はかなわなかった。新車のスタイリングも垢ぬけず、経常赤字が恒常化していた。「レガシーコスト」といわれる退職者への手厚い支払いも大きな足かせとなり、倒産は起こるべくして起こった結末だった。
GMにとって破産申請は、想定された原爆投下にひとしかった。けれども、ガレキの山と化した土地にも草木が芽吹くように、爆弾を投下されて砕け散ったGMの土壌にも、過去半年で少しずつ芽が出はじめた。
最初の明るいニュースは破産申請から40日後のことだった。破産の清算には長ければ1年はかかるとの悲観的な見方もあった中、40日目にして新生GMが誕生していた。
もちろん書類上の整理が終わったに過ぎないが、弁護士たちの早急な地ならしで、新たなスタート地点に立った。もちろんオバマ政権が「不良資産救済プログラム(TARP)」の中からGMとクライスラーに約5兆円の支援をしたことが大きい。オバマ大統領はGMとクライスラーを見放さないという強い態度を表したことは、両社にとって大きな救いである。
そして、GMの新しいCEOに通信最大手のAT&TのCEOだったエド・ウィットエイカー氏が起用された点は注目された。この判断はGMの役員とオバマ政権が決めた人事だった。GMではそれまで生え抜きの人間がトップに立っていただけに、まったく違う業界からの抜擢は、新風を注ぎこむという点で歓迎された。
しかもウィットエイカー氏は「GMの企業文化を大胆に変える」と目された男である。誰に対しても物おじせずに発言する有言実行が身上で、最初に管理職が赤字体質の責任を取るべきとの考えを打ち出した。
昨秋、デトロイト川の河畔にそびえる本社ビルで、匿名を条件にGMの中堅幹部から話をきいた。
「GMの新しいCEOは車のことはまったく知らない人です。ですからこれまでとは違った斬新な経営を期待できます。1300人いる管理職のうち400人を早期退職させた勇断はこれまでにないことで、歓迎すべきです。本当に復活できるか? 私は可能だと思っています」
GMはさらに、採算重視で製造をキャデラック、シボレー、ビュイック、GMCの4部門34車種に絞りこみ、ハマーやポンティアックなどの他部門をはずした。それは14工場と3倉庫の閉鎖、ミシガン州やオハイオ州で2万人の失業者を出すことを意味した。そして全米の1100カ所のディーラーも閉鎖してさらに10万の雇用が消えた。
こうしたそぎ落としは、破産したからこそできた決断でもある。そしてニューヨーク・タイムズは昨年11月、「GM、復活の兆し」というタイトルの記事を掲載した。
回復の理由として挙げたのが、今年6月までに連邦政府に対してTARPの一部を返済(67億ドル)するという財務状況の好転だった。
ミシガン州のジョン・ディンゲル下院議員も、「GMは納税者との約束を守るつもりでいる」とその姿勢を評価した。
さらにウィットエイカー氏は昨年12月、最高財務責任者(CFO)にマイクロソフトのCFOだったクリス・リデル氏を起用した。またしても異業種からの抜擢である。リデル氏は経費がかさんでいたマイクロソフトで、30億ドルものコスト削減を成功させた人物だった。
IT業界にいた同氏が、山ほどの問題をかかえるGMにわざわざ入る必要はなかったが、ニュージーランド出身でオックスフォード大学で哲学の修士号を持つ氏だからこそ、一般的な経営者の論理では計れない思考でGMのさらなるコスト削減が期待されている。
しかも、現在のGM幹部の報酬体系(コンペンセーション)は政府の監視下にあり、以前のような数億円のボーナスを手にできるわけではない。ウィットエイカー氏でさえ今年の年俸は36万ドル(3000万円強)といわれている。
GMの復活の兆しはまだある。南米や中国での販売台数が急速に伸びているのだ。アメリカ国内の09年の売上は前年比で33%も落ちたが、特に中国での売上はすさまじく、08年比で66.9%増である。中国政府による自動車購入者に対する補助金が出されたこともあるが、大型の車を好む中国人はアメ車をいとわない。
ただ、GMにとって、すべてがバラ色であるわけではない。返済する予定の金は支援金の1割強の金額に過ぎない。政府からの支援金があまりに巨額だったため、使いきれずに残った資金を返すだけという声も一部にはある。
本当にGMが自動車メーカーとして競争力がつくまでにはまだ時間がかかるし、北米で競合他社と競り勝ってはじめて復活といえるはずである。
復活への本当の答えはまだ出ていない。


