堀田佳男の「2008アメリカ大統領選ウォッチ」

2009年12月4日

 
 

 税金がどう使われるのか。どこの国でも大きな関心事である。
「チェンジ」というフレーズを強調して登場したオバマ大統領は、ここまで税金をどう使ってきたのか。オバマ流の「チェンジ」がここでも本当に見られるのか。
 大恐慌以来といわれた世界不況から脱するため、オバマ大統領は今年2月17日、アメリカ史上最大規模となる7870億ドル(約70兆円)の景気対策法案に署名した。1月20日の就任式から1カ月も経ていない時期での法制化だった。

 それはアメリカ発の不況を恐慌に陥らせないための手立てであり、そのスピードには専門家さえも驚いた。一刻の猶予もないとの思いから、オバマ大統領だけでなく連邦議会の議員も動いた。景気対策への大統領の思いは、選挙から1カ月後の言動からも読み取れる。
 08年12月7日、NBCニュースとのインタビューで答えている。


「少なくとも250万の雇用を生み出すために、すぐに景気対策法を成立させる必要があります。大統領に当選後、すでに多くの州知事と面会しています。全米の多くの地域で、すでに景気対策予算を使ったプロジェクトがいくつも準備されています。列を作って予算が連邦政府から降りてくるのを待っている状態なのです」

 そして70兆円という連邦予算がつき、ホワイトハウスはホームページ内に「回復へのロードマップ」というコーナーを作って予算の流れを公開し始めた。誰もがすぐに70兆円は使途されると思っていた。
 ところがアメリカ会計検査院(GAO)が11月に発表した報告書によると、9月末の時点で(09年会計年度末)、実際に使途されたのは70兆円のうち15兆円(22%)に過ぎないことがわかった。たった2割強である。
 当初、景気対策で計上されたあり余るほどの金のほとんどは、数週間で連邦政府や地方自治体、民間企業に流れると思われていた。誰もがそう信じ、メディアもそう書いた。だがそうではなかった。
 いったい何があったのか。

 そもそも70兆円という金額は2年間分の予算で、しかも36%にあたる2880億ドル(約25兆円)は減税措置にあてられている。残りは実際に投資促進目的などで多くの分野に使われ、これまでに13万以上の団体や企業が手を挙げている。
 1年以上も前から使う準備ができていたにもかかわらず、いまだに15兆円しか使途できていない理由は、予算を取得するプロセスで政府に提出する書類の整合性や審査など、事務処理に膨大な時間が費やされている点が挙げられる。さらに書類の記入ミスなどによって認可されないケースも多く、いわゆる「役所仕事」の弊害が出ている。
 オバマ大統領がワシントンで法案通過のスピードを速めても、それは首都の中の話であって地方自治体に金がおりる場合のプロセスは、旧態依然としたままであることが露呈した。これでは法制化を迅速に進めた理由は失われる。
 実は法案が連邦議会を通過する直前、1000ページ以上に及ぶ法案を通読した議員はほとんどいなかった。それほど早急にコトが進められた。

 共和党ジョン・ボーナー下院院内総務は、「議員の中ですべてを読んだ人は誰もいないだろう。まともに審議されてもいなかった」と打ち明ける。
 というのも、法案の最終版が書き上がってから下院の本会議場で採決されるまで、24時間もたっていなかったからだ。議員は法案に目を通さず、急がされて投票したのである。
 今後、予算規模が大きいがための無駄な事業も出てくるだろう。景気対策である以上、さまざまな分野で有効に使われることは当然だが、金が市場に出回って経済の活性化に役立つと同時に、教師や警察官などの直接雇用をはじめ、民間分野の新事業による雇用拡大が見込まれている。
 しかし9月末までに予算の22%しか使われていないこともあり、オバマ政権誕生後に創出された雇用は、会計検査院によれば63万にとどまっている。この数字は当初予想よりも大幅に少ない。失業率は10月に10.2%に達し、来年の第2四半期まで下がらないとの予測もある。
 しかも、市場に金を流せば雇用がすぐに増えるわけではない現実もある。たとえばアメリカ西海岸ワシントン州スノホミッシュ郡の地域交通局の例がある。
 同局は景気対策法から1410万ドルを得て、新車のバスを20台以上も購入することになった。しかしバスのメーカー側で、新たな雇用が生まれたという情報は届いていない。

 こうした背景から、現在プラスに転じているアメリカの経済成長率の主因が、実は景気対策法の大型支出による効果でないことが見えてきてしまった。オバマ政権が誕生したというニュースそのものが市場に好感されたことはあるが、70兆円という景気対策がこれから大きく効果を表すかは微妙である。
 ただ一つだけ言えるのは、オバマ大統領が始めた「回復へのロードマップ」はこれまでにない透明性を保っているということだ。誰がどれほどの予算を勝ち得て、どの地域にどれだけの金が流れ、どういった事業が進められているかが映し出される。
 実際に政府から金をいくら受け取り、それをどういう形で使い、そして何人を雇用したかといった末端の様子までわかるようにした点で「通信簿」としての点数は高い。だが、迅速性という点では大きなマイナスで、課題は抱えたままである。

 
 
堀田佳男

堀田佳男

Yoshio Hotta
1957年東京生まれ。早稲田大学 文学部を卒業後、ワシントンDCにあるアメリカン大学  大学院国際関係課程修了。大学院在学中に読売新聞ワシントン支局で1年間助手を務める。卒業後、米情報調査会社に勤務。アメリカの日刊紙の日本語ダイジェストの執筆・編集に携わる。永住権取得後、1990年に会社を辞して独立。以来、ジャーナリストとして政治、経済、社会問題など幅広い分野で精力的に執筆活動を行っている。25年の滞米生活後、2007年春帰国。
著書に『大統領はカネで買えるか?』(角川新書)『大統領のつくりかた』(プレスプラン)など。

http://www.yoshiohotta.com/
 
 

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