aiaiときどきブログ
「自覚なき」階級社会
第24回 (2008/12/9)
先日アメリカにいったとき、“How to Lose Friends and Alienate People”というふざけた名前の本をみつけた。直訳すると「友達を失い、人から避けられるための方法」である。若きイギリス人ジャーナリストがニューヨークに乗り込み、知的でファッショナブルなお金持ちが読んでいる(とされる)雑誌、Vanity Fairで職を得る。が、粗野で強引な性格が災いして、解雇されてしまう……という実話を詳細に描いた自虐的業界暴露本だ。血の気の多いイギリス人が、セレブとファッションを宗教のごとく崇める特殊な人種と遭遇し、次々とトラブルを重ねていくさまはかなり笑えるが、同時に著者のトビー・ヤングが「醒めたイギリス人の目」でアメリカ人の偽善や欺瞞をぶった斬っていくのが痛快である。
なかでも「階級社会」についての見解は、イギリス人ならではの重みがあった。ヤングは、コンデナスト社の上司にクビを宣告されて、「情けないことに、イギリスの階級社会が恋しくなった」と告白する。ヤングはイギリスにおいてはオックスフォードとケンブリッジに学んだ(フルブライト奨学金でハーバードにも行っている)「高学歴ブルジョワ」であり、仕事にあぶれていても、それなりの扱いはしてもらえるが、ニューヨークは違う。コンデナスト社から解雇されると同時に彼は「何者でもなくなった」のである。ヤングはこのとき、アメリカ人が誇りとする「能力さえあれば誰でも成功できる社会」は、裏返せば「成功していない人は能力が足りなかったと決め付ける社会」であることを痛感する。
じつは能力主義=meritocracyという言葉をつくったのは、社会学者であるヤングの父親である。1958年のベストセラー“The Rise of the Meritocracy(能力主義の台頭)”で、ヤングの父、マイケルは、「機会の平等」を前提とした能力主義の社会の行く末を近未来小説として描いた。マイケルによれば、能力主義の社会は貴族社会に勝るものではない。なぜなら、機会の平等を前提とする能力主義社会で成功し、豊かになった人間は、遺産を相続した貴族が感じるような「良心の呵責(つまり、自分は運がよかっただけ)」をまったく感じないからだ。ヤングは、悪びれることなく富をみせびらかすことをよしとするアメリカ文化に、強烈な居心地の悪さを感じる。母国では、上流階級が自分たちの育ちのよさをひけらかすことはない。むしろ嫌味なくらい控えめだ。ヤングが考えるに、その謙遜のそぶりは、自分たちの富が人の羨望と嫉妬をかきたてるのを抑えるための(つまり海の向こうのフランスの貴族のようにならないための)知恵なのである。
ヤングによる米英比較論がどれだけ的を射ているかは判断できないけれども、腑に落ちる部分は多い。
「イギリスとアメリカの決定的違いは、イギリスが階級社会だということではない[実際はアメリカのほうが富の偏在は極端かつ固定的]。そうではなく、アメリカ人が自分たちの社会を能力主義の社会だと信じており、イギリス人はそうでないという点だ。イギリス人は両親の家柄や経済力が子供の機会に決定的な影響を及ぼすことを認めているが、アメリカ人の多くは機会平等の下で競争していると信じている。いや、「信じている」というのは違うかもしれない。ここまであからさまに現実と違うわけだから。むしろそれは信仰に近い。プラトンが言う「高貴なるウソ」ってやつだ。この信仰によって野放しの市場がもたらす極端な不平等を受け入れやすくし、不満を述べる者には「非国民」のレッテルを貼ることができる」
ただ、ヤングも、能力主義という「神話」の効用は認めている。この神話があることによって、皆がよりよい生活を目指して一生懸命働き、アメリカ経済が活性化されてきたのだと。一方で、イギリスの階級社会は、しばしば敗者の体のいい言い訳として使われる。「ああ、俺も奴らみたいな特権階級に生まれていたらな」といった具合に。にしても、イギリスの「正しい自己認識」のほうがまだましだとヤングは言う。人生で成功するかしないかは、両親が誰であるかに大きく左右されることを誰もが認識している社会であるからこそ、「イギリス人はアメリカ人ほど成功を崇拝せず、アメリカ人より失敗に寛容である」からだ。ヤングは、アメリカが「偽りの能力主義」であるもっともよい例は現大統領だと言い、「ブッシュが能力だけで大統領になれたと思っているやつなんているのか?」と毒づく。このほどアメリカ国民は、そのブッシュにかわって、オバマを大統領に選出した。アメリカはより失敗に寛容な社会に向かうのだろうか。皮肉なことに、オバマが直面している「失敗」は、許すにしても、許さないにしても、あまりにその規模が大きい。
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権八
Friday, 12-12-08 13:00
ゴルフのハンデというルールは、やっぱりイギリス生まれなんでしょうか?
赤ちゃんにハンデをつけたら、フェアな社会になるかしら。 -
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