佃 佳典「自滅する企業」7つの症状

【最終回】世界一の「老舗企業大国」日本が誇るべき「地道」力

 
 
2008年7月27日
 
 

 08年5月から始まった当連載も、今回で最後となる。振り返ってみると、たった2ヶ月間ではあるが、世界情勢は大きく変わっているようだ。

■原油価格の高騰が止まらない。鉄鉱石や小麦といった商品市場も連動して一層高となり、株価市場は低迷。物価上昇と景気後退が同時に進行する世界的なスタグフレーションが懸念されている。

■環境問題を主要テーマにした洞爺湖サミットが開催されたが、ここ数年で急速に力をつけた新興国との溝は埋まらず、CO2削減長期目標の合意に留まる。もはやG8の力だけで世界をリードすることは難しいのだろう。まさに、世界はフラット化したようだ。

■日本の状況も芳しくない。世界経済動向と同じく景気後退の懸念が高まってきた。原油や商品市場の高騰により、これから企業や国民の負担はより重くなっていくだろう。年金問題や食品偽装といった問題もすっきり解決したとはいえず、先行き不透明な状況だ。

■食糧問題や水資源問題といった、新たに解決すべき問題も明確になってきている。一方で、太陽光発電といった代替エネルギー開発に対して急速に注目が集まっており、新たなビジネスチャンスも芽生えはじめた。

 まさに世界の枠組みが変わろうとしているのではないだろうか。後に「あの時が潮目だった」と言われるような、歴史的な転換点にいるような気がしてならない。

 先が読めない変化の激しい現在の経済情勢では、今日正しい戦略でも、明日には全く通用しない戦略になってしまう。
「顧客の嗜好が読めない」「競合の動きが読めない」「テクノロジーの進化が読めない」……
 誰もが成功を予測できなくなっているのである。現代の企業マネジメントは、我々が想像するよりも遥かに複雑で、不確実なものとなっている。

 このような不確実なビジネス環境の中で、企業はどう進んで行けばよいのだろうか。これまで7つの習慣病について解説してきたが、要約すると「定期的に自社の状況を診断し、結果を謙虚に受け止め、病状が悪化する前に改善する」ということだ。そんなことは当たり前のことだという声が聞こえてきそうだが、その当たり前のことを地道に実践できていない企業が自滅的習慣に陥っているということを認識すべきである。

 カリスマ経営者や圧倒的な技術力、豊富な資金力が、企業が存続・発展していくために必要なのだろうか。いや、むしろ、常に謙虚に自社の状況をとらえ、地道に不断の努力で改善にとりくむ組織文化こそが、成功に欠かせないのではないだろうか。
 実は、これこそ日本人が得意で強みとするところなのだ。当連載とほぼ同じ時期に始まった日本経済新聞の連載『200年企業-成長と持続の条件』によると、日本は創業200年以上の企業が「3113社」もあり、2位のドイツ(1500社超)、3位のフランス(300社超)を大きく引き離し、世界一の「老舗企業大国」なのである。そのうち、約2割にあたる618社が創業時と異なる業種で存続しているという。

 代表例として、上記の連載ではミツカングループがあげられている。ミツカンの歴史を見てみると、造り酒屋であった中埜家が酒粕酢醸造に進出することから始まったミツカンは、ビール・牛乳・銀行・ガス・紡績と新事業を次々に展開し、近年は積極的なグローバル展開や納豆といった食品事業への進出等、成功に甘んじることなく果敢に挑戦することで200年以上の歴史を積み上げてきたことがよくわかる。

 こうして考えてみると、この先が読めない現在の世界経済情勢は、バブル崩壊後、本格的な経済成長の波に乗り切れていなかった日本企業にとって、ある意味チャンスなのかもしれない。日本企業は変化に柔軟に対応するDNAが、世界で一番備わっているのだ。今こそ、自らの組織を顧みて、現状否認に陥らず、果敢に挑戦してきた多くの老舗企業の範に習うべき時ではないだろうか。

 『自滅する企業』は、民間企業の経営者・管理職といった方々を念頭に書かれているが、組織に所属するあらゆる世代のビジネスパーソンにとっても有益な書であると、私は確信している。熱心な読者の方々から、「企業の自滅的習慣を、自分に当てはめて読んでいる」「経営陣に責任を押し付けるのではなく、個人が自滅的習慣に陥らないようにしなければいけない」といったような、当初は想定もしていなかった感想をいただいた。

 そう、この7つ自滅的習慣は、自分自身や、自分が所属する課やプロジェクトチームといった最小組織にもあてはめて考えることができる。組織文化を形成するのは、まさしく我々自身なのだ。

「常に自分を厳しく顧みて、現状否認に陥らず、外部環境の変化に対して、果敢に挑戦する」

 多くのビジネスパーソンが「自滅的習慣」に陥らないよう、意識して行動することが、日本の活性化につながるのではないだろうか。私自身、日々意識して行動していきたいと思っている。

 
 

佃 佳典

Yoshinori Tsukuda
スカイライトコンサルティング シニアマネジャー。中小企業診断士。
関西学院大学法学部卒業。外資系コンサルティング会社のマネジャーとして活躍した後、現職。製造業、情報通信業などを中心に、業務改革、プロジェクトマネジメント、新規事業調査・企画・立ち上げ支援などに携わる。訳書に『自滅する企業』(ジャグディシュ・N・シース著、英治出版)。

スカイライトコンサルティング
http://www.skylight.co.jp/

 
 



自滅する企業
 ――エクセレント・カンパニーを蝕む7つの習慣病

ジャグディシュ・N・シース著
スカイライト コンサルティング訳
A5判ハードカバー
本文384頁
定価1,995円
ISBN-13:9784862760197

 
 
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