【第三回】お湯を沸かした経験もない「ネットカフェ難民」
『日本溶解論 この国の若者たち』の著者・三浦展さんは、1985年から92年に生まれた世代を「ジェネレーションZ」と名付けた。現在の高校生、大学生であるZ世代は、小学生のころにバブル崩壊。その後、阪神・淡路大震災、オウム真理教の地下鉄サリン事件、酒鬼薔薇聖斗による神戸連続児童殺傷事件、9.11テロなどが立て続けに起きた。
そんな時代に育ったZ世代とは、どんな若者たちなのか。広告代理店からの依頼を受けた三浦さんは、Z世代へアンケート調査やインタビューを行った。その結果「戦後の経済発展を支えた価値観」が、Z世代には通用しないことが明らかになったという。
Z世代の若者たちは、三浦さんにこんなふうに語っている。
「死んだら終わり、と思いたくない」「笑顔でいたい」「キャバクラ嬢になりたい」「前世を知りたい」「目に見えるものだけがすべてではないと思う」「日本のお祭りって、いいなって思う」……。
これから社会に登場するZ世代について、三浦さんに話を聞いた。
せっかく就職した会社がこの先どうなるか分からない。そもそも正社員として雇ってくれる会社がない。そんな社会で生き抜くにはどうすればいいか。
先日、そんなテーマで「反貧困ネットワーク」の副代表雨宮処凜と対談しました。雨宮処凜は、インターネットカフェで暮らすネットカフェ難民を調査しています。ネットカフェ難民のなかには、お湯を沸かした経験がない人もいるらしい。もちろんご飯を炊いた経験もない。職業能力以前に、基本的な生活力が備わっていないんです。ガスレンジで火をつけた経験がない人に、巨大な機械を使った仕事をさせるなんて無茶でしょう。おそらくネットカフェ難民になった本人も恐怖を感じるんじゃないですか。
ご飯を炊く。火をつける。当たり前の生活体験ですが、この積み重ねが働く自信の根拠になる。いざとなれば、皿洗いをして生きていけるという自信に直結するわけです。そんな自信を持てば、大概のことはできるようになるはずです。しかし、生活体験が乏しかったり、自信がない人ほど、自分に合った仕事は何だろうかと悩み、考え込んでいるような気がします。
憧れの職業としてよくあがるミュージシャンでもデザイナーでも、その業界で生きぬかなくてはならない。いくら歌が上手くて、センスが良くて、才能があっても、まずは、その業界、つまり世間で生きる力が必要なんです。例えば、それは芸能界のドンである和田アキ子に挨拶することかもしれません。そんな「世間力」を持つ若者でも、ミュージシャンやデザイナーになれるかどうかは分からない。でも、社会人として生きてはいける。世間力さえあれば、大人として、社会に認めてもらえるんです。
子どものうちに、世間力を育むのも大切です。親は、子どものプロデューサーです。どんなふうに育てるか。それを考えるのが親の義務でもあり、親の面白さでもあるわけです。春休みや夏休みに、子どもを地方に山村留学させる人がいるけど、もっと親自らが手間暇をかけるべきだと思うんです。わざわざ田舎に行かせなくても日曜日にできることがあるはず。親の趣味を押しつけて、映画館や美術館に連れて行くのもいい。そこで親は何が好きか。何を考えているのか。どんな仕事をしているのか。話せばいいんです。
どうでもいいことが、子どもの世間力を育てることに繋がっていくんじゃないかと思います。例えば、強面のオヤジがひとりでやっている怪しいラーメン屋に子どもを連れて行く。店が汚くても、まずくても、食べ終えたらごちそうさまと言え、と教える。一度、経験すれば、次はひとりで行けるでしょう。いろいろなものを見せて、リアリティーを感じさせる。簡単にいえば、親は、子どもともっと付き合っていろんな体験をさせればいいんです。
しかし、地方には、こぎれいなファミリーレストランやパワーセンターばかりになってしまった。強面のオヤジがやっている店はずいぶん減った。しかも郊外化が進んで、車がなければ、どこにも行けない。地方には、世間がなくなってしまった。そうに考えると、今は、溶解してしまった地方よりも、都市の方が、子どもの世間力を育てる場として適しているのかもしれないですね。 《終》
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