【第一回】よさこいを踊る若者は「地元ヤンキー」ではなかった
『日本溶解論 この国の若者たち』の著者・三浦展さんは、1985年から92年に生まれた世代を「ジェネレーションZ」と名付けた。現在の高校生、大学生であるZ世代は、小学生のころにバブル崩壊。その後、阪神・淡路大震災、オウム真理教の地下鉄サリン事件、酒鬼薔薇聖斗による神戸連続児童殺傷事件、9.11テロなどが立て続けに起きた。
そんな時代に育ったZ世代とは、どんな若者たちなのか。広告代理店からの依頼を受けた三浦さんは、Z世代へアンケート調査やインタビューを行った。その結果「戦後の経済発展を支えた価値観」が、Z世代には通用しないことが明らかになったという。
Z世代の若者たちは、三浦さんにこんなふうに語っている。
「死んだら終わり、と思いたくない」「笑顔でいたい」「キャバクラ嬢になりたい」「前世を知りたい」「目に見えるものだけがすべてではないと思う」「日本のお祭りって、いいなって思う」……。
これから社会に登場するZ世代について、三浦さんに話を聞いた。
『日本溶解論』の取材で、よさこい祭りに参加しているZ世代の若者たちに会いました。実際に話を聞くまでは、よさこいは地元に残ったヤンキーが集う祭りではないかと思っていた。しかし、そうではなかった。ぼくが見た限り、真面目に働いている若者たちが中心だったんです。
興味深かったのは、男女ともに福祉系や医療系の仕事に従事している人が多かったことです。地方には、若者が正社員として働ける職場が少ない。高齢化が進むなかで、求人が増えている産業が福祉や医療です。地元では安定した職場なので、親もそこで働くのを望む。地元に残った真面目な若者は、福祉や医療系の仕事に就くんです。そんな若者たちがよさこいを踊っていた。
Z世代に先行したのは、酒鬼薔薇聖斗ら「キレる14歳」世代。先日、土浦市の荒川沖駅で8人を殺傷した通り魔もそうです。彼は仕事をしていなかった。定職に就かない先行世代を見てきたからか、Z世代は、まず仕事をしなくてはダメだと感じているようです。話を聞いてみると、上の世代に比べて、フリーターやニートはイヤだという答えが多かった。なかには、父親がリストラされて、兄がフリーターという人もいた。何とか食っていかなければ、という危機感が伝わってきました。
しかし、福祉や医療の仕事は、やりがいはあるが所得は低い。将来への不安を抱えながら働く人が多い。みんな自分に向いた仕事をしたいと思っている。でも、何が自分に向いているか。自分が何をやりたいか。はっきり分からない。
アンケート調査で、面白い結果が出ました。半数近くのZ世代が、人間は死んでもまた生き返ると考えているんです。つまりZ世代は、スピリチュアルを信じている。インタビューでも「オーラの泉」の江原啓之や美輪明宏に「あなたはこうなる」と言われたいと話す人が多かった。そして「運命を信じている」人は、よさこいを踊った経験がない人では18.1パーセントなのに、踊った経験がある人では32.1パーセントに増えるんです。よさこいを踊る若者たちは、こう生きるべきだ、あなたに合った仕事はこれだ、と教えて欲しいのかもしれません。
このスピリチュアルの調査結果にはちょっと驚かされました。ぼくは、Z世代の親世代です。ぼくらは、日本は近代的で合理的な国だと信じてきた。それが戦後日本の価値観だった。その価値観が、今、溶けているように感じます。逆に、スピリチュアルの原形ともいえる天照大神の神話を信じていたころから、日本人は変わらなっていないのかもしれない。Z世代のなかで、天照大神は復活しているような気がしました。
溶解したのは、戦後の価値観だけではありません。ぼくは『ファスト風土化する日本』を書くために地方を訪ねました。地方には、ぱっと見ると立派な道路が通り、巨大なパワーセンターができた。その代わりに町の商店街はシャッター通りになってしまった。正月に手作りのおせち料理ではなく、ジャスコで買った総菜を食べるようになった。郊外のロードサイドに建つパワーセンターは、新潟県上越市で生まれ育ったぼくとって、15年ほど前まで確実に存在した地方独特の精神風土、文化風土が、溶けて液体になった象徴に見えます。
ポーランド出身の社会学者ジグムント・バウマンは、『リキッド・モダニティ――液状化する社会』で伝統的な共同体に縛られず個人が自由に生きる現代社会を分析しました。それを意識して、タイトルに「溶解」という言葉を使いました。Z世代は、戦後日本の価値観と地方の風土が溶解した今の時代を映し出しているんです。
《第2回・「魚屋の息子は、なぜ『ひきこもり』にならないのか」に続く》
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