文様のふ・し・ぎ 47 たんぽぽ

文様のふ・し・ぎ  たんぽぽ

まだ冷たい空気の中に、ほんのわずかでも春の気配を感じるようになると、途端にソワソワしてくる。そして私はこんなにも春の訪れを待ち侘(わ)びていたのかとハッと気づかされるのだ。近所には一面にたんぽぽが花を咲かせる空地がある。それはまるで微笑(ほほえ)んでいるようで、こちらもつられてつい口元が緩んでしまう。

小学生の頃のこと。各自で新聞を作る課題があった。名前も内容も自由で、迷わず名付けたのが『たんぽぽ新聞』。どうしてそうしたのかはもう忘れてしまったけれど、私にしてはなかなかのネーミング。子供の頃には名前に込めた意味などはなく、きっと音の響きとあの可愛(かわい)らしい姿が好きだからといった単純な理由に違いない。

「辺りを明るく照らすように咲いたたんぽぽは、綿毛となって風に乗り、ふわふわと幸せを運ぶように旅に出て、その先でまた誰かを笑顔にする。そんな新聞にしたいから」。大人になってから考えたそんな意味など、少し野暮な気がしてしまうのだった。

文=長谷川ちえ エッセイスト、器と生活道具の店「in-kyo」店主。2026年3月7~15日には素描家・shunshunさんの個展を開催予定。詳細はInstagram@miharuno.inkyoにて。

イラスト=山本祐布子

構成=雨宮みずほ

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