文様のふ・し・ぎ 46 鶴

文様のふ・し・ぎ  鶴

私が暮らす福島県三春町には山の上に三春城址(じょうし)があり、自宅から歩いて10分ほど。ただそこまでは急な坂道で、さらにその先には見上げるような長い石段が続く。ゼーゼーと息を切らしながらのぼるのはいつものこと。頂上に着けば広々とした澄んだ空が待っている。冬の晴れた日には遠くに雪化粧をした安達太良(あだたら)連峰、眼下には三春の街並み。なんとものどかで清々とした心地がするお気に入りの場所でもある。

三春城は、永正元(1504)年に戦国大名の田村義顕(よしあき)が築いたと伝えられ、義顕が入城した朝に城の上空を鶴が舞ったので「舞鶴城」とも呼ばれるようになったといわれている。ちなみに三春名物の「三角揚げ」は、舞鶴城の名前に由来する鶴が羽を広げ、空高く飛ぶ姿に見立てた三角形の油揚げ。諸説あるようだが鶴は縁起がいいからだろうか、町ではこの説を好む人が多い。私の好物の三角揚げと好きな場所は、鶴に導かれるように 自然と繋(つな)がっていたのだ。

文=長谷川ちえ エッセイスト、器と生活用具の店「in-kyo」店主。2025年12月5~14日には漆工・宮
下智吉さんの個展を開催予定。詳細はInstagram@miharuno.inkyoにて。

イラスト=山本祐布子

構成=雨宮みずほ

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