
士農工商の身分制度が敷かれていた江戸時代、あらゆる面で伝統や格式を重んじていたのが、最も位の高い武士だ。その奥方も同じ価値観で、生け花や茶の湯をたしなみ、古典芸能や文学に触れる日々を送っていた。そんな彼女たちが着物に求めたのも「格式」、そして「教養」。「町人の間で個性的な柄が流行していた時代に、吉祥文様などの古典柄を着ていたのが武家の奥方です」と、武蔵大学で日本の服飾史を研究する丸山伸彦さん。能の演目を図案化するのも好まれたといい、「たとえば『石橋(しゃっきょう)』を表した着物には、牡丹(ぼたん)が咲く橋と獅子の鬣(たてがみ)が描かれています。これは能の知識がなければ理解できない柄であり、教養が必要です」。
浅葱(あさぎ)、萌黄(もえぎ)、白や紫など、落ち着きと品格が漂う色を使い、友禅染が流行していた時代にあえて刺繍で重厚感を出すなど、町人との差別化を意識した着物や帯が多く見られた。
シックでトラディショナル。そこにインテリジェンスを兼ね備えたスタイルの源流は、案外ここなのかも。
付け下げ5万5000円(リユース)/ひょうたん堂 刺繍袋帯6万6000円(リユース)/キモノ和楽市 銀座店 帯揚 げ8800円、帯締め3500円/以上、ひょうたん堂 伊達衿3300円、かんざし3300円/以上、キモノ葉月 代田橋 利休バッグ(さんび)5万2800円/荒川 南部表三ノ七重ね草履8万6350円/辻屋本店 ※紋織り白半衿(松皮菱 〈びし〉)はスタイリスト私物。