
いつの時代もどんな土地でも、絞りには
人をはっとさせる美しさがある。
江戸時代からずっと愛される有松鳴海絞のゆかたは今、
4000kmを越えて職人たちが手仕事のバトンをつなぐことで、
私たちに届けられている。
カンボジアで細やかな絞り工程を終えた白生地は、再び空を駆け、有松鳴海へ。
「こんにちはー!」
作業の手を止めず、朗らかな声で迎えてくれたのは、染め工場「早恒染色」で働く3人の女性たち。もとは「早恒染色」の絞り教室の生徒だった彼女たちが、染めの工程を手伝うようになり、今では、染め場の主戦力になっている。
まずは白生地を一晩煮て、絵刷りと呼ばれる下絵を落とす。たっぷりと水分を含んだ反物は相当重量があるが、「せーの!」と3人で力を合わせてゆかた8反分を大きなステンレス槽へ。昔は常滑焼の大がめで藍染めしていたと聞けば、かつてこれが地の利を生かした一大産業であったことが腑(ふ)に落ちる。
きっかり7分で地染めしたあと、さらにほかの色を加えるものは隣のステンレスメッシュ台へ。生地を広げてすぐさま小さなジョウロを持ち、流し染めの工程に移る。極細の口から注がれ、生地の上にじわっと色の輪をつくるのは、60〜90℃に温度をキープした染料。この技は、実はとても画期的!
「先々代が特製のジョウロを考案したことで、多色の染め分けができるようになったと聞いています」
天日に干した生地は、風呂敷に包まれて、糸解き職人の手に渡る。
「生地を切ってしまわないよう、はさみは使いません。集中力が必要なので、一日1反が限界ですね」
染料が入り込まないよう、かなり固く糸留めされているため、一日が終わると職人の羽田野孝行さんの手は、指が開かなくなるほどこわばっている。
けれど、まるでイソギンチャクのようなツノを解いた後、その膝の上にスルスルと全貌を現す絞りの文様の、ああなんと美しいことか!
生まれたての絞りの反物。手仕事の積み重ねであることを知ると、なおさらいとおしい。
カンボジアからのバトンをつなぎ、染めに従事する「早恒染色」の内田弥生さん、増田 薫さん、高江洲真紀さん。「きものやまと」延山直子さん。
工場の屋上にも上がらせていただいた。かつては江戸と京を結ぶ東海道の宿場町の間に位置した有松。町並みを見下ろす物干し台で、染め生地がぐんぐんと春の陽気をはらむ。この町に降り注ぐ太陽はカンボジアにも朝をもたらし、古い屋根瓦を見下ろす大きな空は、確かに4000㎞の先までつながっている。
江戸時代から400年。この夏もまた新しい絞りのゆかたに出会えるのは、もしかすると、ちょっとした奇跡なのだろうか。
【第1回】これからの民藝 「きものやまと」の絞り 1 を読む
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文=高橋マキ 撮影=原 祥子(有松鳴海)イラスト=小林マキ