えんぎもの 秋

 うさぎ、うさぎ、なに見てはねる。十五夜お月さま、見てはねる……秋の澄んだ夜空にぽっかり浮かんだお月さま。飛び跳ねるうさぎが見上げる真ん丸なお月さまにもまた、うさぎがすんでいると信じられてきた。ほらよく見てみてください、21世紀の今月今夜のこの月でも、うさぎが餅をぺったんぺったん搗(つ)いているのが見えるじゃありませんか。

 月にうさぎがすんでいる、という説話は日本では古くから知られるところだが、お釈迦(しゃか)様の前世のエピソードを集めた古いインドの物語などの影響を受けているのではないかとされている。

 とまぁ、月とうさぎは切っても切れない。月=“ツキ”になぞらえて、うさぎはツキを呼ぶという。長い耳は遠くからも「福」をかき集め、飛び跳ねる様は「飛躍」を表し、物事がトントン拍子に進むとされる。そして、何より多産なので、子孫繁栄、五穀豊穣(ほうじょう)のシンボルとして、女性の守り神とされてきた。かわいいだけじゃない、まさしく縁起のいい動物なのである。

 日本では「因幡(いなば)の白兎(うさぎ)」の時代からの長い長いお付き合い。唱歌『故郷(ふるさと)』の冒頭には「兎追ひしかの山」と歌われ、小学校の校庭では必ずと言っていいほどうさぎが飼われていた(今でも飼っている学校は多いだろう)。それほどまでになじみのある愛らしい小動物だ。着物の文様のモチーフとして多く見られるのも、むべなるかな。

イラスト=川口澄子 文=編集部