2021年の高値から3分の1近くまで下落したビットコイン。6月半ばの安値からは反発していますが、まだ本格的な価格反転と呼ぶにはほど遠い状況です。一方、ビットコインに次いで暗号資産市場で2番目のシェアを占めるイーサリアムは、6月の安値から2倍近くまで上昇。さらに上値をうかがおうとしています。果たして、いま暗号資産市場では何が起きているのでしょうか。また、ビットコインやイーサリアムはどう動いていくのでしょうか。これらの点について、マネックス証券の暗号資産アナリスト、松嶋真倫さんにお話をうかがいます。

米国の金融政策がすべてのカギを握る イーサリアム絡みの暗号資産には引き続き注目

松嶋 真倫
Masamichi Matsushima
マネックス証券マネックス・ユニバーシティ 暗号資産アナリスト

大阪大学経済学部卒業後、都市銀行に就職。退職後、調査会社株式会社Baroque Streetのメンバーとして暗号資産・ブロックチェーン業界の業界調査や相場分析に従事する。マネックスクリプトバンク株式会社では業界調査レポート「中国におけるブロックチェーン動向(2020)」、「国内外のサプライチェーン領域におけるブロックチェーン活用事例と課題」「Blockchain Data Book 2020」などを執筆。国内メディアへの寄稿も行う。2021年3月より現職。

インフレを抑えるために金融政策を大転換

——2021年は11月頃までビットコインの価格が大きく上昇するなど、暗号資産市場は絶好調でした。ところが昨年末以降は急落しています。いったい、暗号資産市場に何が起きているのでしょうか。

松嶋 昨年までの暗号資産市場が好調だった最大の要因は、日・米・欧が足並みをそろえて金融緩和の政策を取っていたことです。また、米国や欧州では財政出動によって景気が回復していたこともあり、金融市場全体が強気の状態になっていました。そのため、株式や暗号資産といったリスク資産が大きく買われたのです。

ところが、昨年11月以降、米国の金融当局は金融緩和の規模を縮小することを発表し、さらに2022年3月には金融引き締めへの転換を打ち出しました。これによって、金融市場では強気(リスクオン)の状態から弱気(リスクオフ)の状態となり、いまだに弱気の状態が続いています。株や暗号資産は、これまで買われ続けていた反動もあって大きく売られました。

——市場にお金をバラまく政策から、今度は市場からお金を回収する政策に転じたわけですね。なぜ、そのような政策の転換が必要だったのですか。

松嶋 米国では景気が順調に回復していたので、金融当局もそろそろブレーキを踏み始めようとしていたタイミングではありました。そこに、ロシアとウクライナの戦争をきっかけに資源やエネルギー、穀物などの価格急騰が加わったことで、インフレ圧力が高まりました。

米国の金融当局は、「これ以上インフレが進むと、せっかく回復してきた米国経済が大きなダメージを受けかねない」と判断し、インフレを抑えるために金融引き締めにシフトしました。3月以降、ハイペースで利上げを行っていますが、7月の時点では、インフレは収束するどころか加速しています。それによって、米国だけでなく世界的にも景気後退のリスクが浮上し、金融市場でも弱気が続いている状況です。

ポジティブなニュースも毎週のように出ている

——金融市場全体の流れは把握できました。焦点を暗号資産に絞ると、どういう状況なのでしょうか。

松嶋 2022年5月に発生した暗号資産テラ(LUNA)の暴落、いわゆる「テラショック」は、暗号資産業界にネガティブなインパクトを与えました。また、暗号資産の相場が急落したことを背景に、暗号資産を活用した貸出事業を手掛けるセルシウス・ネットワーク、暗号資産ヘッジファンドのスリー・アロ-ズ・キャピタルが破綻するなど、暗号資産業界にとっては悪いニュースが続いています。

2021年は、NFT(非代替性トークン)やDeFi(ディーファイ、分散型金融)といった新しい動きが相場上昇に貢献していましたが、現在では、それらの注目度が下がっているのは否めません。NFTはいまはやりのメタバース(巨大仮想空間)との相性が良く、暗号資産市場にもいい影響を及ぼすことが期待されているのですが、NFT相場がビットコイン以上に大きく下げたことで、いまはそうした思惑もしぼんでいます。一部では「NFTって本当に有望?」といった疑問の声まで上がっているようです。

——ネガティブな材料ばかりですが、ポジティブな材料はないのでしょうか。

松嶋 日本は世界から一回り遅れていることもあってあまり報じられませんが、世界では「Web3.0」と呼ばれるブロックチェーン技術を活用した新しい分野で新しい企業やサービスが次々と誕生しています。これを中心に、毎週のようにポジティブに捉えられるニュースが出てはいるのですが、ネガティブなニュースに打ち消されてしまっている印象です。

これは、やはり金融市場全体が弱気に傾いているからでしょう。金融環境が好転し、暗号資産相場が上昇に転じてくれば、今度はポジティブなニュースが素直に受け取られるはずです。それを受けて相場が上昇し、相場が上昇することでさらに新しい動きが出る――といった好循環が生まれるかもしれません。

——その状況の変化が訪れるのはいつごろと予想されますか?

松嶋 暗号資産の相場反転の条件として、まずは米国でインフレが収束し、利上げのペースが落ちることが挙げられます。高インフレが続いているうちは、米国も利上げのペースをなかなか緩められません。その時期については、非常に判断が難しいというのが本音です。というのも、インフレにはロシアとウクライナの戦争が影響しているため、戦争が終わらないと予測しづらいというのが実情だからです。

「早期の戦争終結→米国のインフレが収束→金融引き締めのペースが鈍化→景気後退リスクが減少・リスクオン相場への転換」というのが相場反転に向けた一連の流れになると思いますが、これは目先の1、2ヵ月で片付くようなことではありません。このシナリオが実際に走り出すまでは、上よりも下を向いた相場展開になる可能性も考えられます。

イーサリアム関連の暗号資産で好循環が生まれる?

——ほかに、相場の転換点になりそうな要素はないのでしょうか?

松嶋 ビットコインと米国の株式相場の連動性が崩れたタイミングが転換点になるかもしれません。かつて、ビットコインは「株価との連動性が低い」点を強みとしていた側面があるのですが、現在は連動性が高くなっていて、その強みが失われています。連動性が再び崩れてくれば、ビットコインが「インフレリスクの回避先」として注目度が上昇するかもしれません。

戦争など不透明な要素はありますが、ビットコインは2024年に半減期(ビットコインをマイニングした時の報酬が半減する時期)を迎えます。過去の経験則から、半減期が大きな相場のターニングポイントになることが予想されることに加え、その頃には米国の金融政策も転換期を迎えていると思われるので、2024年“まで”には本格的な反発相場が訪れるのではないでしょうか。

——ビットコインのほかに注目できる暗号資産はありますか?

松嶋 イーサリアムでは、これまで抱えていた問題の大半を解消するための大型アップグレードに向けたプロジェクトが進められています。まだハードルはいくつもありますが、そのアップグレードが完了すれば、イーサリアムのブロックチェーンを活用した他の暗号資産も大きなメリットを受けるでしょう。そうなれば、NFTやWeb3.0といった新分野の動きが活発化することが予想されます。また、そうした新分野が活発化することで、イーサリアム本体の価値が上昇するという好循環が生まれるかもしれません。7月半ば以降、イーサリアムがビットコインよりも上昇率が高かったのも、大型アップデートに対する期待の表れでしょう。

ただし、本格的な相場上昇については、やはり先にお話しした「金融市場の好転」が必須条件です。これから暗号資産への投資を始めるのであれば、まずは少額でビットコインを買ってみるといいかもしれません。暗号資産の基本的な内容や将来性などを勉強して、投資の経験を積みつつ、本格的な上昇を待つのがいいと思います。