年初には3万円台を目指す動きを見せていた日経平均株価が、3月には一時2万5,000円台を割り込み、7月上旬現在も2万6,000円台の攻防となっています。一方、NYダウやナスダック総合指数といった米国の主要株価指数はともに3月の安値を割り込み、下値模索の状況が続いています。日米ともに株式市場が足踏みをしている中、投資家はここから先、どのように株式市場と向き合っていけばいいのでしょうか。『人生を逆転する10倍株入門』(ビジネス社)の著者であり、自らも個人投資家として活躍した経験を持つ西野匡(アセットマネジメントあさくら)さんにお話を伺いました。

西野匡さん

西野 匡(にしの・ただす)

「アセットマネジメントあさくら」のシニアアセットコンサルタント。1990年から太平洋証券(現・三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社し、13年間に渡って証券営業に従事し、退職。そこから14年間、個人投資家として日本株を運用し、莫大な利益を挙げた。2017年に、IFA(証券仲介業)である「アセットマネジメントあさくら」に入社。個人投資家好みの中小型の成長株に着眼し、これまで数々の急騰株を発掘してきた。

今年に入り、流通の面でもマネーの面でも供給が滞っている

――昨年までは絶好調だった個人投資家も、今年に入ってからの株安で大きく資産を減らしていると聞きます。今、株式市場に何が起こっているのでしょうか?

コロナ禍の中、昨年までは各国の中央銀行が金利を低く抑え込み、市中に流通するマネーの供給量を増やしてきました。それらのマネーは株式市場や暗号資産といったリスク市場に流れ込み、相場を上昇させてきたのです。短期的には、株式市場は需給によって動きますので、需要が供給を上回り、相場が上昇してきたわけです。

ところが今年に入り、世界中でインフレ懸念が台頭してきました。これを抑制するために各国が金利を引き上げ、マネーの供給量を減らす金融引き締めにかじを切り始めたのです。また、ウクライナ情勢の悪化により資源価格が高騰、これもインフレを加速させる要因になっています。つまり、物価など流通の面でも、またマネーの面でも供給が滞っており、これがインフレと株安を引き起こしているのです。

一般的に、金利の引き上げは、株式市場にとってはネガティブ要因になります。金利が上昇すれば、投資家のマネーはリスクの高い株式市場を嫌って、金利が高く安全な債券市場などに流れるからです。今年に入り、米国をはじめとする各国がインフレと景気後退を抑えるために金利を引き上げており、これによって株式市場が下落しているわけです。

――個人投資家の中には、昨年までの利益をわずか数ヵ月で溶かしてしまった人が多いと聞きます。

「昨年までと同様に、株式市場は上がるもの」と信じ込んでいる投資家にとっては厳しい状況にあると思います。確かに、昨年までは、持ち株に多少の含み損が出ていても、我慢して保有していれば「お向かえ」が来る相場でした。しかし、今年に入り、相場環境は激変しています。上昇相場でも下落相場でも、常に損切りを心がけておかなければ、いつかは大きくやられてしまいます。株式投資にとってそれほど「損切り」は重要なものなのです。

株価と25日移動平均線で損切りのタイミングを決める

――なるほど。損切りの重要性はよくわかりました。では、具体的にどのようなシグナルで損切りを行ったらいいのでしょうか?

私がもっとも頼りにしているのが、日足チャートによる25日移動平均線と株価の関係です。移動平均線とは、一定期間における終値の平均値を線でつなげたもので、売買タイミングの決定に非常に役立つ指標なのです。相場の環境にもよりますが、私は基本的に保有銘柄が25日移動平均線を割り込んできた場合にロスカット(損切り)することをおすすめしています。

一方、あらかじめ下落率で損切りルールを明確化するという考え方もあります。たとえば、銘柄を買った時点から10%、あるいは20%下がったら保有を諦めて損切りするというものです。ただし、気を付けなければいけないのが、損切りよりもプラス目標を高く設定することです。目標利益が5%なのに損切りが10%であれば、勝率が5割の場合、資産が減ってしまうことになるからです。ちなみに、直近IPO(株式の新規上場)銘柄に投資する場合には、買値から10%下がったら潔く撤退するようにアドバイスすることもあります。

とはいえ、いったん損切りを行った銘柄に再び投資するというケースもよくあります。特にIPO銘柄の場合は需給が偏りやすく、値動きが激しくなりがちです。買値から10%下がって損切りしたものの、その後、再び騰勢を強め、高値を更新してくるケースは珍しくありません。過去の高値を更新した銘柄は需給が改善し、上値が軽くなっていくものです。私自身、2度損切りして3度目のエントリーで大きな利益を取った銘柄もあるくらいです。

ダメージを受けていたインバウンド関連のリベンジ相場へ

――相場環境が激変している中、ここから投資するならどのような銘柄を選んだらいいのでしょうか?

相場環境を考えて銘柄を選ぶことはとても重要です。昨年までは、コロナ禍でも業績に大きなダメージがない銘柄や、コロナ自体が追い風になるような銘柄が人気化しました。しかし、ここからはアフターコロナを見据えた銘柄選びがポイントになりそうです。そういった意味では、昨年もしくは一昨年前に活躍した銘柄は外したほうがいいでしょう。

逆に昨年までは、インバウンド(訪日外国人観光客)関連など、直接的なダメージが大きい会社は人気が離散し株価が低迷していたわけですが、ここからはそれら銘柄のリベンジ相場が始まると考えています。日本政府による水際対策も緩和の方向に向かっていますので、旅行や外食、サービスといったインバウンド関連の会社の業績が拡大路線に入っていく可能性は十分にあります。インバウンド関連では2017年に高値を取った銘柄が多く、休養は十分で「戻り売り圧力」も少ないと思います。このように新型コロナと相性が悪かった銘柄に出番が回ってくることも考えられます。

たとえば、共立メンテナンス(9616)はビジネスホテル「ドーミーイン」やリゾートホテルを全国展開している会社ですが、昨今の全体相場下落に逆行高し、株価はすでにコロナ以前の水準まで回復してきました。また、美顔器や家庭用美容機器など、健康機器メーカーのヤーマン(6630)も上昇トレンドに転換してきました。外食関連では、名古屋地盤の居酒屋チェーンを運営するヨシックスホールディングス(3221)が連日の高値更新となっています。このように、足元の相場はコロナ禍で調整してきた銘柄を買う絶好のタイミングにあります。

――最後に、個人投資家に向けて、アドバイスをいただけますか?

私は、現在、「アセットマネジメントあさくら」というIFA(証券仲介業)で、個人投資家の皆さんに投資の助言などを行っていますが、私自身、過去には個人投資家として14年間、日本株に投資を続けていました。株式市場はとても夢のある世界で、資産の少ない個人投資家もやり方次第では、劇的に人生を変えることができるのです。

何十億円もの資産を持っている人であれば、できるだけ資産を減らさないように冒険を避けて、配当狙いの安全な投資を行えばいいでしょう。しかし、資産を持っていない人がそんなやり方で資産を劇的に増やすのは不可能です。そういう人こそ、ある程度のリスクを取りながら高成長の新興企業に投資するべきだと思っています。ここ最近の相場では、成長株が売られる一方でバリュー(割安)株が底堅く推移してきました。しかし、そろそろ成長株にも買い場が近づいてきていると思います。売られ過ぎで割安になったピュアな成長企業を発掘してください。

誤解を恐れずに言えば、株式投資は業績のよい銘柄を当てるゲームではありません。株価が上昇する銘柄を発掘するゲームなのです。そのことを本当に理解している人は少ないと思います。「業績がよいから大丈夫」といつまでも損切りせずに持ち続ける。その結果、どんどん株価が下がって、含み損が拡大していく。こんなことにならないように、損切りのルールを明確化して実行してください。

足元の相場環境は非常に厳しいですが、このような状況はいつまでも続くものではありません。世界各国が大きなリセッション(景気後退)を回避するためにさまざまな施策に動いています。これによりインフレを抑え込むことができれば、今度は景気浮揚や株価上昇のための対策が打たれることになるはずです。そういった意味では、株の買い場はすぐそこ、もしくは今なのかもしれません。