銘柄選びにおいては、企業業績などのファンダメンタルズ分析はとても重要です。しかし、ファンダメンタルズ分析では、ファンドマネジャーやアナリストといった、それを生業としているプロには情報量やスピードといった点において、一般の個人投資家は到底太刀打ちできません。

しかし、テクニカル分析であれば、プロ・アマ問わず、誰もが平等に分析することができます。

2022年に入り、日米の株式市場の乱高下が続いています。特に、足元の米国株市場では、年初の株高がウソのようにNYダウもナスダック総合指数も下値を模索しています。一方、外国為替市場では円安が止まりません。また、ビットコインをはじめとする暗号資産も厳しい値動きとなっています。こんな混迷相場だからこそ、売買のタイミングは慎重に判断したいものです。5月に「勝ってる投資家はみんな知っているチャート分析2」(扶桑社)を上梓したマネックス証券の福島理さんに、お話を伺いました。

福島さんPH1.jpg

福島 理(ふくしま・ただし)

1974年千葉県生まれ。大学卒業後、大手印刷機器メーカーに入社。ITバブル崩壊後の2000年から投資をスタート。2005年、証券業界に転身。自らの投資経験に基づき、個人投資家にテクニカル分析を中心とした啓蒙活動を行う。現在はマネックス証券にて、マネックス・ユニバーシティ室長として投資教育などを活動的に行っている。2021年に上梓した『勝ってる投資家はみんな知っているチャート分析』(扶桑社)は重版を重ね、2022年5月には第2弾となる『勝ってる投資家はみんな知っているチャート分析2』(扶桑社)が発売された。

金利上昇、株価下落の逆金融相場に突入か⁉

――6月に入り、株や外国為替、暗号資産といった金融商品の値動きが激しくなっています。特に、株式市場の下落が激しく、多くの個人投資家が含み損を抱える状態となっているそうです。相場環境にどのような変化が起こっているのでしょうか?

チャートを活用したテクニカル分析を説明する前に、まずは足元のファンダメンタルズを確認しておく必要がありそうです。教科書的には、株式相場には、「金融相場」「業績相場」「逆金融相場」「逆業績相場」という4つのサイクルが存在します。このうち、金利が下がり、株価が上昇するのが金融相場と業績相場です。逆に、金利が上がって、株価が下落していくのが逆金融相場と逆業績相場です。「金融相場→業績相場→逆金融相場→逆業績相場→金融相場……」とサイクルは移り変わるのですが、もっとも気を付けなければいけないのが、業績相場から逆金融相場への転換点です。

――4つのサイクルのうち、現在はどこに位置しているのでしょうか?

基本的に、株式市場がどのサイクルにあったのかは、後々になってわかるものです。ただ、コロナ禍で各国の中央銀行は景気回復のために金利を引き下げ、市中にマネーを大量に供給してきました。これは金融相場の大きな特徴です。市中にばらまかれたマネーは株式や暗号資産などの投資商品に向かい、それらの価格は急上昇しました。そして、景気や企業業績が徐々に回復にしてきたのです。しかし、今度は物価が上昇し、インフレ懸念が台頭してきました。インフレを抑制するためには、金利を引き上げ、マネーの供給量を減らす必要があります。2022年に入って、米国が金利引き上げを決定するなど、金融政策の転換にかじを切りましたよね。これは、まさに逆金融相場の大きな特徴です。

つまり、現在はもっとも気を付けなければいけない「業績相場から逆金融相場への転換点」の可能性が高いのです。業績相場では株価は上昇するのが一般的ですが、逆金融相場では株価は下落していきます。これまでのように株式や暗号資産が上昇を続けていく相場はすで終わってしまった可能性があるというわけです。

――現在のような乱高下相場では、テクニカル分析が通用しないという声も聞かれるのですが、いかがでしょうか?

そもそもテクニカル分析というのは、各国の金融政策や企業業績はもちろん、自然災害や紛争という世の中のすべてのファンダメンタルズが反映されているというのが前提になっています。そういった意味では、どんな相場環境でもテクニカル分析を無視することはできないと思います。ただ、現在のように先行きが不透明な相場環境では、1つのテクニカル分析だけに頼るのではなく、複数のテクニカルを掛け合わせて分析することが大切です。

一口にテクニカル分析といっても、その種類はさまざまです。相場の全体的な方向性(トレンド)を見極めることを目的とした「トレンド系」の指標もあれば、売られ過ぎや買われ過ぎといった相場の過熱感を示す「オシレーター系」の指標もあります。ただ、それぞれに特有の強みや弱みがありますので、時としてダマシ(誤った判断)が発生してしまうこともあるわけです。ですので、精度を上げるために複数のテクニカル分析を併用するのです。

日経平均の上昇と下落を予知していたMACDとDMI

――では、現在の相場では、どのようなテクニカル分析が通用するのでしょうか?

実際に、足元の日経平均株価に、いくつかのテクニカルを組み合わせてみたところ、MACD(マックディー)とDMIの組み合わせが信頼できることがわかりました。MACDは、トレンド系とオシレーター系の両方の要素を持ち合わせている分析手法です。MACDでは、MACD線がMACDシグナル線を下から上に突き抜けたタイミング(ゴールデンクロス)が買い、上から下に突き抜けたタイミング(デッドクロス)が売りと判断します。

一方、DMIは、 市場の全体的な方向性(トレンド)を見極めることを目的とした順張り型のテクニカル指標です。DMIの特徴は、終値の比較を無視して、当日の高値と安値が前日の高値と安値に比べてどちらが大きいかを見極め、相場の強弱を読むところにあり、価格の変動幅(ボラティリティ)からトレンドを分析するところにあります。DMIでは、ローソク足チャートを上段として、下段に「+DI」と「-DI」、そして「ADX」の3つの折れ線グラフで構成されます。

+DIは、上昇力を示す上昇方向の指数 -DIは、下降力を示す下降方向の指数 ADXは、上昇および下降トレンドの強弱を示す指数

DMIにおけるトレンドの判断は以下の通りです。

●上昇トレンドでは、+DIが上昇、-DIが下降、ADXが上昇 ●下降トレンドでは、+DIが下降、-DIが上昇、ADXが下降

売買シグナルは、+DIが-DIを下から上に突き抜けた場合に「買いシグナル」、+DIが-DIを上から下に突き抜けた場合を「売りシグナル」と判断します。

図版は、直近の日経平均株価にMACDとDMIを組み合わせて表示させたものです。これを見ると、MACDとMACDシグナルのクロスと、DMIの+DIと-DIのクロスがほぼ同時に発生していることがわかるはずです。このように複数のテクニカルを組み合わせることで、より精度を上げることができるというわけです。

福島さん、チャート図版
(日経平均株価 日足チャート)

プロ・アマ問わず、誰もが平等に分析でするテクニカル

――投資家には、テクニカル派とファンダメンタルズ派がいると思いますが、テクニカル分析の強みはどのようなところでしょうか?

テクニカル分析の優れているところは、日本株や米国株だけではなく、FX(外国為替証拠金取引)や暗号資産など、さまざまな金融商品の相場に活用できるという点です。特に、最近のネット証券やFX会社の情報分析ツールは、ほとんどプロ仕様同然で、簡単な操作でさまざまなテクニカル分析を表示することができます。ですので、銘柄選びではファンダメンタルズ派の投資家も、売買のタイミングはぜひ、テクニカル分析を参考にエントリーしてもらいたいと思います。 

テクニカル分析を売買に取り入れるうえで注意したいのは、売買サインが出ているのにそれを無視してトレードしてしまうことです。たとえば、損切りのサインが出ているのに、「今はタイミングが悪いだけ。時間がたてば、買値まで戻るのではないか」と根拠のない願望から損切りをためらってしまったことはありませんか?気持ちはわからないでもありませんが、それをしていたら、いつまでたっても「勝ち組」の投資家にはなれません。時には、その根拠のない願望がうまくいくこともありますが、長い目で見れば、失敗のほうが多くなってしまうはずです。

――今が逆金融相場とすると、投資家はどのように行動すればいいのでしょうか?

株式投資において相場の下落で収益を出すためには、信用取引の「売り」(カラ売り)を活用する必要があります。ただ、信用取引のカラ売りには「利益は限定、損失は無限大」という特徴があり、一般的にはハイリスクの投資と言われています。ですので、カラ売りを行わないと決めている投資家も少なくありません。そういう方であれば、焦らずにテクニカル分析を活用して、次の買い場をじっくりと探ってください。仮に相場全体が下降トレンドあれば、上昇トレンドになるまで待つべきです「休むも相場」という投資格言があるように、投資に焦りは禁物です。他人のお金を運用するプロの投資家であれば、どんな相場環境でもリターンを追求する必要がありますが、個人投資家であれば、やるやらないは本人次第。極端な話、勝てる確率の高いときにだけエントリーすればいいのです。

スクリーンショット 2022-07-07 11.36.19.png
(福島氏 新刊書影)