実はカンタン! 「怒らない技術」10のコツ

怒ることを選んでいるのは親自身

子育てをしていると、言うことを聞かないわが子にイライラし、ついカッとなって怒鳴ってしまうことがある。

たとえば慌ただしい朝、子供を学校へ送り出し、家事をすませて仕事に向かわなければならないのに、「早く食べなさい」と何度催促しても、子供がのんびり食事をしているとき。ましてや兄弟でふざけてみそ汁でもひっくり返そうものなら「どうして怒らせるようなことばかりするの!」と怒鳴りたくもなるだろう。

しかし、80万部を超える「怒らない技術」シリーズの著者で、怒りをコントロールする技術の普及に努めている日本アンガーマネジメント協会の理事も務める嶋津良智氏は、「“怒る”ことを選んでいるのは親自身」と言う。

「仮に、子供の学校も自分の仕事もない日で、何時までに家を出なければならないという時間的制約がなかったとしたらどうでしょうか。子供がのんびり食事をしていても、それほどイライラすることはないと思います。気持ちにゆとりがあれば、子供がみそ汁をひっくり返しても、冷静に対処できるはずです。このように、子供がしたことに対して、どう反応するかを選んでいるのは親自身なのです。そして、さまざまある反応の中から怒ることを選んでしまう理由は、実は、親の“心の枠”に原因があります」

心の枠とは、誰もが持っている自分なりのルールや価値観、思い込み、期待、思惑などを指す。そして、この枠の中におさまる事態であれば冷静に対応できるが、枠から外れた事態に出くわすと、イライラしたり、カッとなったりしてしまうという。

前述の例でいえば、何時に家を出るには、何時までに後片付けを終えて、外出する準備にとりかからなければならないかが、親には経験からわかっている。母親なら化粧の時間も加味される。これが、「自分なりのルール」に当てはまる。毎朝のことなのだから子供も理解しているはずだという思い込みや、「ウチの子ならできる」といった期待も含まれているだろう。

「ところが、子供は思ったとおりには動いてくれないものです。その結果、イライラして、怒りがこみ上げてくることになります。また、心の枠の大きさは、いつも同じとは限りません。機嫌が悪いときは枠がグッと狭くなり、普段なら笑ってやり過ごせることでも、腹が立ってしまいます。逆に、気分が良いときは心の枠も大きくなるため、細かいことに目くじらを立てることもありません」

こうした怒りのメカニズムを理解して、イライラや怒りを上手にコントロールする方法が、次に紹介するコツ“怒らないスキル10”である。

怒らない秘訣は、反射しないこと

嶋津氏によれば、怒りをコントロールするうえで大切なことは、「イライラや怒りの感情に反射して、すぐ怒りださないこと」だという。

「脳の機能には、思考系と感情系があります。思考系とは、断片的な情報をつなぎ合わせ、連想し、合理的な判断をしようとする機能で、感情系とは、食欲や睡眠欲などの生理的な欲求全般に関する機能です。イライラや怒りは、感情系が優位になっているときに生まれやすい。ですから、イライラや怒りを鎮めるには、その兆しを感じたときに、何らかの方法によって思考系を優位にするのが効果的です。一度、怒りだすと、怒りはどんどんエスカレートして、思考系を優位にすることが難しくなってしまうからです」

この「思考系を優位にする」技術が、怒らないスキルなのだという。そこでまずは、“怒らないスキル10”のうち、イライラや怒りを感じたとき、とっさに実行することで思考系を優位にできる方法を5つ、嶋津氏に紹介してもらおう。

1.ストップシンキング

怒りに反射しないためには、“間”をとって一度気持ちを落ち着かせ、思考系を働かせるチャンスをつくることです。その最も簡単な方法が、イライラを感じたときに頭の中で「1、2、3」と3つ数える「ストップシンキング(思考停止)」です。

2.タイムアウト

カッとなって、脳の感情系が暴走しそうになったときは、その場から離れることで、強制的に“間”をつくる。これが、タイムアウトです。

子供が悪さをして怒鳴りそうになったら、「ちょっとトイレに行ってくる」「お茶を入れてくる」と断って、10秒間だけでもその場を離れます。目の前に怒りの対象がない場所に行くと、冷静さを取り戻すことができます。そして子供にどのように話せば、悪いことをしたと理解してもらえるかを考えられるはずです。

3.コーピングマントラ

コーピングマントラとは、イライラしたときに唱える魔法の呪文を持つというスキルです。

おすすめの呪文は、「きっと何か理由があるはず」です。たとえば、子供がなかなかお風呂に入らないとき。「さっさと入りなさい」と怒鳴らずに、「きっと何か理由があるはず」と口にします。もしくは、子供に「何か理由があるの?」と聞いてもいいでしょう。子供からは論理的な答えなど返ってこないかもしれませんが、そう問いかけることで「子供がすぐにお風呂に入らない理由」を脳はいろいろと考えはじめ、自然と思考系が優位になっていきます。

私の場合はよく「それはちょうどいい」を使いますが、自分なりの魔法の呪文を見つけたいなら、普段意識せずに使っている言葉を探してください。たとえば何かを諦めるときに「しょうがないか」とよく口にするなら、それを魔法の呪文にします。

4.ポジティブフォーカス

イライラの原因から目をそらして、子供の良いところに目を向けるのが、ポジティブフォーカスです。

誕生日に子供が手紙をくれたとか、子供をいとおしいと感じたエピソードを思い出します。そのために、日ごろから子供の良い部分をたくさん書き出しておいて、怒りそうになったらそれを見返しても良いでしょう。

私の場合は、トイレやリビングなどに、息子が生まれたばかりのころの写真を飾っています。この写真を見ると、生まれたときの感動があらためて浮かび、怒りを忘れることができるからです。

5.クロスポジション

学校から帰っても、なかなか宿題をしない子供に、「早く宿題をしてしまいなさい。宿題もしないからテストの成績が悪いのよ!」などと叱っていませんか? しかし、もしあなたが、子供から毎日「もっとおいしいご飯をつくってよ!」と言われ続けたらどう思いますか? 「○○ちゃんのママは英語を学び直して英会話教室の先生をしているんだって。ママも早く仕事探しなよ」などと比較されて、「よし、頑張るぞ!」と素直に思えるでしょうか。

このように、感情にまかせて怒りそうになったら、子供の立場になって(クロスポジション)「自分が言われたらどう感じるのか」を考えましょう。そうすれば、子供に伝わる話し方を工夫するはずです。

普段から準備できる5つの怒り回避法

ここまでは10のスキルのうち、怒りが込み上げてきたときにとっさにできる方法を紹介してきたが、怒らない体質にするためには、日ごろからのトレーニングも必要だ。そこで普段から気をつけておきたい5つのスキルについて、解説していこう。

6.キープメンター

子育ての悩みを理解してくれる良き相談相手――メンターがいるだけで、イライラはかなり軽減できます。子育ての先輩やママ友など、悩みを何でも言いあえる相手をつくり、不満をアウトプットすることで、イライラが募るのを防ぐのです。身近でメンターが見つからない場合は、子育て支援センターやインターネット上の子育て支援サークルなどを活用する方法もあります。日記やブログに怒りを書き出すだけでも効果があります。

7.リロケーションアイ

イライラがおさまらないとき、思い切って気分を変える方法が、リロケーションアイです。

あるお母さんは、皆が寝静まったのを見計らい、夜中に1人でドライブへ出かけるそうです。日中とは違う特別な空間に身を置いて、車内では大きな声で不満を叫ぶ。時間にして20分ほどでも、胸の内にたまっていた不満がスーッと消えるとのことでした。

やったことがない新しい習い事に挑戦するとか、普段と違う道を通るなど、日常体験していない、少しストレスがかかるくらいのチャレンジをするのがポイントです。

8.アクトカーム

「今日は絶対に声を荒らげない」などと決めておけば、カッとしたときに怒りの暴走を抑える力になります。

このように「○○しない」と決めるスキルをアクトカームといいます。「『早くしなさい』と言わない」など、イライラしたときについ口にしてしまうセリフを禁止してみましょう。急にはできないので、「今日の午前中だけ」とか「2日間だけ」など、目標を決めて徐々に延ばしていくといいでしょう。

9.リフレーム

イライラや怒りを感じる原因となっている心の枠を変えてしまおうというスキルが、リフレームです。

たとえば、5歳の兄は朝からご飯をたくさん食べるのに、4歳の弟は半分近く残すうえに、食べるのが遅い。これがイライラの原因だったとします。この場合、「上の子が食べるのだから、下の子も食べるはずだ」という心の枠があるのかもしれません。そこで、「兄弟でも、食べる量やスピードが違うのは当たり前」だとリフレーム(考え直し)するのです。

10.ファーストファクター

イライラや怒りには、そのもととなる第一の感情があります。たとえば、連絡もないまま娘の帰りが遅いとき、父親はイライラして、「帰ったら叱りつけてやろう」と考えるかもしれません。このときの第一感情は“心配”です。それがわかれば、娘を怒鳴るのではなく、心配していることを伝えて、遅くなるときには連絡するように諭せばいいのだと気づくはずです。

このように、不安や悲しみ、ストレスなど、怒りのもととなる第一感情がわかれば、怒鳴ることなく、親の気持ちを伝える方法がわかります。

自分に合うコツを1つ使えばいい

それぞれのスキルをどう使い分ければいいかもよくわからない、と思う方もいるだろう。しかし、「そんな心配は無用」と嶋津氏。

「怒らないスキルは、シチュエーションに応じて使い分けるものではなく、気に入ったものを1つ使い続けるだけで効果があります。1つを使いこなせるようになったら、必要に応じて、スキルの数を増やせばいいのです。大切なのは、使い続けること。繰り返し使うことで、感情系に流されにくくなり、思考系を活性化する力を伸ばすことができるからです。それから、『子供は親の言うことを聞くものだ』という心の枠をなくして、子供には自分の言っていることのほとんどが伝わっていないのだと理解しておきましょう」それだけで、イライラの大半は抑えることができ、粘り強く何度も話す必要があると考えることができると言う。

常に笑顔を絶やさない嶋津氏だが、「私はかなりの短気です。でも、怒りにまかせて怒鳴り散らしても、良いことは全くないことに気づいてから、変わろうと思いました」。イライラや怒りを感じる頻度は、接触回数の多さに比例し、怒りは上から下に流れるため、母親にとっていつも身近にいて、自分が産んで育てた子供は、イライラや怒りを特に感じやすい対象になりやすい。

「私にも息子がいるので、お母さんたちが子育て中にイライラしてしまう気持ちはよくわかります。それに親が子供のために怒るべき場面というものも確実に存在します。そのため、怒ることのすべてを否定するつもりはありませんし、怒りを無理やり抑えつける必要もないと思います。しかし、怒りの8割は、相手のためを思ってのことではなく、怒りを相手にぶつけてスッキリしたいなど、自己満足のためです。怒りを上手にコントロールする“怒らないスキル”を身につけ、その理由が自己満足の場合は怒りをそらし、残る怒るべき場面では、その怒りを上手に表現することが大切なのです」

嶋津良智
リーダーズアカデミー学長、日本リーダーズ学会代表理事、日本アンガーマネジメント協会理事。早稲田大学講師。『怒らない技術』『子どもが変わる 怒らない子育て』がシリーズで80万部を超え、国内外で「おこらない子育てセミナー」を開催する。