二兎を追って二兎を得ることができた人は何が違うのか。2018年の世界柔道選手権などで優勝(金メダル)した朝比奈沙羅選手は今春、獨協医科大学医学部に合格した。「脳まで筋肉の柔道選手に医学部合格なんて……」などと誹謗中傷を受けたにもかかわらず、その苦難を乗り越えられた理由をプレジデントFamily編集部に明かした――。

※本稿は、『プレジデントFamily医学部進学大百科2021完全保存版』の一部を再編集したものです。

医師免許と五輪出場を狙う朝比奈沙羅とテルヤさんの物語

「朝比奈家は普通の家じゃない。子供の頃からずっとそう思ってきました」

「二兎を追って二兎を得た」朝比奈沙羅さん(撮影=市来朋久)
「二兎を追って二兎を得た」朝比奈沙羅さん(撮影=市来朋久)

2017年、マラケシュ世界柔道無差別選手権優勝、18年、バクー世界柔道選手権78kg超級優勝(金メダル)のほか、数多くの国際大会を制覇してきた柔道家・朝比奈沙羅選手。来る東京五輪代表も有力視される彼女は、自身が育ってきた家庭環境について、こう語る。

「テルヤさん、あ、父のことです。両親のことをテルヤさん、ミツコさんって呼んでいます。幼稚園の頃、父とキャッチボールをしていて、取れなくて顔にボールが当たったことがあるんです。父は学生時代水球をやっていて、球がめちゃくちゃ速い。それなのに娘の顔を心配するどころか『何やってんだ! 顔で止める気持ちでやれ!』って。普通じゃないですよね」

利き手ばかりを使っていると体のバランスが崩れると、父の言いつけで朝食は右手で箸を持ち、昼食は左手、夕食は右手で、翌朝は左からと、左右交互に使って食べさせられた。

「やる以上は徹底的に。それが朝比奈家の家訓だと言われてきました。箸だけじゃなく、左右どちらでもボールが投げられるし、両足でボールを蹴ることもできます」と沙羅選手。

「巨人の星」の星一徹と飛雄馬親子のエピソード

まるで、『巨人の星』の星一徹と飛雄馬親子のエピソードのようだが、こうした父の教育が見事に実を結び、父の念願通り、沙羅選手は日本を代表するアスリートへと成長……したのかと思いきや、事情は少し違うらしい。

東京西徳洲会病院麻酔科に勤務する父・朝比奈輝哉氏に、娘の教育方針を聞いた。

「実は、アスリートに育てようと思ったことは一度もないのです。私も妻も医療系の仕事なので、沙羅も医師にしたかった。やはり資格というのは生きるための強い武器。だったらどこでも通用する医師免許を持てば、生きる上での選択肢が増えます」

身長180cmを超える大男で、言語明晰。自信に満ちた大きな声で、子育て哲学を語る。なかなかの迫力である。

「ただ、勉強一筋で夜10時まで塾通いをさせるような教育法は違うと思っていました。体力もつけられないし、なによりも中高受験でバーンアウトしてしまう恐れがあります。いろいろな習い事をさせ、沙羅の力を総合的にアップさせていくという方針を採りました。頭と体は連動していますから、スポーツも本格的にやらせました」

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